♯4 壁のメンテナンス

「ただいま~」


「今日もそうして待ってくれてたんだ~。えらいぞ~」


「よしよーし! いい子いい子~」


「今日はね、壁くんのお手入れをしようと思うんだ」


「だって壁のメンテナンスをするのは家主の責務でしょう?」


「はいはい! いいからそのまま座って」


「だって立ったままだと届かないでしょう! いいから座りなさい!」



//SE 大きな衣擦れの音

(彼女が後ろから抱きついてくる)



「ほら、早く座りなさいってば!」//後ろから声が聞こえてくる


「これからメンテナンスするんだからね? 動いちゃダメだからね?」



//SE 肩を叩く音



「うわっ、肩凝ってるねぇ~」


「どう気持ちいい? これくらいの強さで大丈夫?」



//SE 肩を叩く音



「立っているだけでも疲れちゃうよね……」


「いつもありがとね……」//聞こえなくらい小声で



//SE 肩を叩く音



「あっ、今日はホームセンターでマッサージ機も買ってきたんだよ?」


「これも肩に当ててあげるからね」



//SE 電源を入れる音

   マッサージ機の振動音


   

「あはは、ビクッとしたね」


「どう? これは気持ちいい?」//耳元で囁くように



//SE マッサージ機の振動音



「あっ! これ強さを調整できるんだよ! もっと強くしてみる?」



//SE スイッチの音

   強めの振動音



「あはは! 気持ち良さそうだね!」


「え? もうちょっと弱めのほうがいい?」



//SE スイッチの音

   さっきよりも弱めの振動音



「じゃあこれでどうだ!」


「丁度いい? じゃあ良かったぁ」



//SE 振動音



「あはは、本当に気持ちよさそうだね」


「そんなに喜んでくれるなんて買ってきた甲斐があったよ」


「じゃあ、次は……」



//SE 服の擦れる音

(彼女が背中に耳を当ててくる)



「後ろから心臓の音聞かせてもらっちゃおうかな~」



//SE 細かい衣擦れの音

   心臓の音(ドクンドクン)


 

「ふぅ……ふぅ……」



//SE 心臓の音(ドクンドクン)



「え? 今日はありがとう?」


「ふ、ふんっ! 自分の壁のメンテナンスしただけだし! そんなお礼を言われるようなことしてないし!」


「……」


「……じゃあご褒美にもっと心臓の音聞かせて?」



//SE 心臓の音(ドクンドクン)



「ふぅ……ふぅ……」//心臓の音に合わせて声が漏れる



//SE 心臓の音(ドクンドクン)

(心臓の音が段々ゆっくりになっていく)



「……んぅ?」



//SE 心臓の音(ゆっくり)



「……あ、あれ?」


「壁くん、もしかして寝ちゃった?」


「お願い、こっち向いて? ねぇ?」


「……」


「や、やっぱり寝てるぅ……!」//いじけたように


「えっと、その……今ならなんでも言うこと聞いてあげるよ?」


「ほ、ほら、私にできることなら何でもするから」


「だから起きて私のことをかまって?」


「ね? 壁くん?」


「……」


「……」


「……ねぇ、壁くん?」


「ほ、本当に寝てるの?」


「……」


「……」


「ちょ、ちょっとーー! そのまま寝ないでよ! もっと私のことかまってよ!」







(そしてそのまま朝になる)


//SE 鳥のさえずり



「……おはよう壁くん」


「昨日はぐっーーすり寝れたみたいだね」//いじけたような声


「ふーん、私のことを置いて寝るのがそんなに気持ち良かったんだ」


「私、怒ってるんだよ。昨日は心臓の音を全然聞かせてもらってないし、聞いてもらってもないし」


「なにその顔! 壁のくせに生意気じゃない!?」


「でも、まあいいわ。これからもっとすごい事してやるんだから」


「覚悟しておきなさいよ? 泣いても叫んでも絶対に離さないから」


「はぁーー!? 別に寂しかったからじゃないし!」


「ちーっとも、これっぽっちも寂しくなんかないし!」


「……」


「……」


「……」


「……ぐすっ」


「本当はちょっとだけ寂しかったし……」//声を震わせて


「寝る時は寝るってちゃんと言ってよね……ぐすっ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る