♯3 ただいまの壁ドン

「や、やっと家に着いたぁ……」


「今日も疲れたなぁ」


「やっぱり壁くんがいる家が一番落ち着くなぁ……」


「早く壁くんに癒されたいなぁ」


「えへへ、壁く~ん♪」



//SE 玄関を開く音



「ただいまー!」


「あれ? 壁くん?」



//SE 小走りでこちらに走ってくる音

   彼女がこちらに勢いよく抱きついてくる。



「どうして黙っているのかなぁ? ねぇ? ねぇ? ねぇ?」



//SE 衣擦れの音(彼女が体をこすりつけてくる)



「私寂しかったんだけど!」


「まさかとは思うけど、他の女の事考えてたりしてないよね?」


「もしもそうだとしたら……」


「許せない……」


「絶対に許さない……」


「絶対に……」


「ねぇ? 聞いてる?」


「ねぇってば?」


「なーんてね、あなたに限ってそんなことないよね」


「……」


「ないよね?」


「うん、分かってるよ」


「君は私のことが大好きだよね? もしそんなことがあったら壁に画鋲いっぱい差しちゃうから」


「えっ? 壁にだよ? 壁に画鋲くらいは差すよね?」



//SE 細かい衣擦れの音

(胸元で彼女の顔が動く)



「うん、知ってるよ」


「でも、まだ足りないの」


「もっともっともっと、壁くんには私が必要なんだよ」


「だから、私が居ないと生きていけないようにしてあげようと思ってるの」


「その為にはまず、君が誰のものかってことをしっかりと理解してもらわないとダメだと思うんだよね」



(彼女の声が上の方に向く。声がより大きく聞こえる感じに)



「だから、今日はちょっとしたゲームをしてみる事にしました!」


「ルールは簡単! 今から私が“壁ドン”をするので君は絶対動かずに我慢すること」


「もし、動いたり悲鳴をあげたりしたらその時点でアウトだからね! 分かった?」


「はい、スタート!」


「まずは……」



//SE 胸元をさする音



「ここに君の心臓があるんだよね~」



//SE 心臓の鼓動(ドクンドクン)

(自分の心臓の音なので音はかなり小さめ)



「今日もちゃんと元気だね~。偉いぞ~」


「えっ? 壁ドンじゃない?」


「壁ドンってこうやるんでしょう?」



//SE 彼女が体を勢いよくぶつけてくる



「……んしょ、よいしょ」



//SE 彼女に本物の壁まで押される



「はい、ドーン!」



//SE 勢いよく壁に手をつく音



「は~い、壁くんは追い詰められました~」


「……壁くん、そのまま壁を背にしたまま少し身をかがめて?」


「うーん……そうじゃなくて」


「じゃあ両膝を床につけて、上半身を直立させてみて」


「そうそうそんな感じ」


「はい、上手にできたね~」


「じゃあご褒美にぎゅ~してあげるから」



//SE 激しい衣擦れの音

(彼女が背中に手を回して、何かを探るように体をこすりつけてくる)



「うーんと、この辺かな?」


「もうちょっと下かな?」


「あっ……この辺だぁ」



//SE 心臓の鼓動

(心臓の音はかなり小さめ)



「何してるかって?」


「私の胸とあなたの胸をくっつければお互いの心臓の鼓動の感覚が分かるでしょう?」


「いいから、もっとくっついってってば……」



//SE 二人の心臓の鼓動(二人の心音なので不規則)



「……」



(彼女が痛いくらいまで身を寄せてくる)


//SE 二人の心臓の鼓動(二人の心音なので不規則)



「……」


「……ふぅ」


「……」


「……」//息遣いが荒くなっていく


「……」


「……」


「あっ……」//切なげに息が漏れる



//SE 二人の心臓の鼓動(二人の心音なので不規則)



「ど、どう? あなたも気持ちいい?」//囁くように


「あれれ~? 答えられない~?」


「まぁ、しょうがないよね。壁だもんね~。壁くんは雑魚だもんね~」


「……」


「……ふぅ……ふぅ」



//SE 服を力いっぱいにつかむ

(背中に回した手に力がこめられる)


//SE 二人の心臓の鼓動(二人の心音なので不規則)



「ふぅ……ふぁ……」


「ふぅ……はぁ……はぁ」



//SE 衣擦れの音



「壁くん好きぃ……! 大好きぃ!」//切なげに


「……」


「……」


「あ、あはははは! すっごいドキドキしちゃったね」


「……」


「……」


「……ねぇ、キスしてもいい?」


「もちろんダメに決まってるよね?」


「壁だもんね?」


「あー、やっぱり壁だと唇奪えないのかぁ」


「残念だなぁ」


「まぁ、しょうがないか」


「壁くんは壁だしね」


「でも壁くんの初めては全部私がもらうんだから覚悟しておいてね?」

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