白い紫陽花と水色の傘

@whits

第1話 白い紫陽花

僕は道端で見つけた白い紫陽花に目を奪われた。とても綺麗に咲いていた。

5月の終わりに見つけた、その花は雨にも負けず、むしろ雨の雫できらきらと光っていた。僕だけの秘密にしておきたかった。しかしながら、人生そううまくいかなかった。

次の日、黄色いレインコートとレインブーツと水色の傘を持った1人の女の子が白い紫陽花を見ていた。立ち去る様子もなく、かといって側にご両親の姿はない。もしかして、迷子?やたらと黄色と水色の主張の強いファッションの女の子は白い紫陽花に見惚れているようだ。僕も昨日見惚れていたので、気持ちはわかる気がする。声をかけようか悩んだ末に声をかけることにした。

「大丈夫?どうしたの?」

「白い紫陽花、見て」

「うん、綺麗だね」

「私、この花みたいになる!」

とにっこりときらきらした瞳でこちらを見てくる。とても耐えられず、少し笑ってしまった。不思議そうにこちらを見ていた女の子が自己紹介し始めた。

「私、みつき、花が好きなの」

「僕はかおる、花は好きだよ」

「みつき、迷子になっちゃった」

「やっぱり、お家どこかわかる?」

「みつきのお家、この公園を抜けてまっすぐ行った大きい白い家なの」

「一緒についていこうか?」

「かおるがいてくれたら頼もしい!」

「ならゆっくり歩いていこうぜ」

とぼとぼ歩くみつきにどうしてか、僕は家に帰りたくない気持ちなんだな、と悟った。でも、聞いちゃいけない話題な気がして僕はそれ以上聞かないことにした。みつきも帰らなくちゃ、両親が心配しているだろうと感じていた。そう思うと二人の足取りはどんどん重くなってきた。

僕はこの状況を変えるために名案を思いついた!

みつきに昨日撮った白い紫陽花の写真を見せてみたら、元気になるかと思っていた。僕の考えは浅はかだった。みつきに写真を見せた途端、大粒の涙がぽろぽろっと出てきた。びっくりした僕も、みつき自身もびっくりしていたみたいだった。

「なんか、ごめんな」

「私、あの白い紫陽花を目に焼き付けてから帰ろうと思ったの」

「うん」

「かおるはいつでも見れるんだと思ったら悲しくなって」

流れる涙が止まらない。僕もじわりと泣けてきた。

「私の家、厳しくてこの後ピアノのレッスンがあるの」

「帰らなくちゃ!ご両親も心配してるよ」

水色の傘がくるくる回ったと思ったら、みつきは傘を閉じた。そして、黄色いレインコートとレインブーツの格好でくるっと回って、またかおるに会いたいな、と呟いて大きい白い家に入っていった。みつきの日常に戻るのであろう。僕はもう一度、あの白い紫陽花を目に焼き付けてから、帰ろうと思う。そうしたらまたみつきに会えるような気がして。帰り道に白い紫陽花の花言葉を調べたら寛容と一途な愛情というものらしい。

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