第7話 道に迷う、イケおじに出会う。
職員との話を終え、言われた区画に向かったはずだったが、どうみても工房らしき建物は見当たらない。他の区画と違いコンクリート造りの建物も少なく、ほとんど手入れのされていない廃墟の様な家屋が立ち並んでいた。
そばを流れる川は中心部から出る煤に汚れた廃水が流れ込み、黒く淀んで悪臭を放っている。
そんな中をふらふらとさまよい、あっちにこっちに行ってみても、気が付けば同じところをぐるぐるぐるぐる。
「もー!ここどこなのよ!」
ゲーム内のマップは細かい部分は見られず、ざっぱな区分。来た道を戻ろうにもあてどなく歩いたせいでどの方角から来たかも分からなくなる。
ゲームの中の迷子にどこか胸に込み上げる不安。
「ぐぬぬぬ、意地でもここからでてやるう」
さっきとは違う方へ歩みを進めていけば、古びた看板と重厚な見た目の木製ドア。中に誰かいないものかと一か八かにドアノッカーを握る。
「おや?ワタシの工房になにかようかネ。
かけられた声に振り返れば、シェブロンスタイルの髭がダンディなおじさまが、パンの詰まった紙袋を抱えていた。
▼▼▼
「ほうほう、それで道に迷ってこんな寂れた場所まで来てしまったと、そういうことだネ。まあこの区画は増改築が多かったからネェ、迷うのも仕方ないサ」
紅茶の注がれたカップに口を付けて、ここまでの経緯を説明すれば「これもどうゾ」とドライフルーツの入ったクッキーを差し出してくれる。
「ありがとう、おじさま。それでさっきも言ったのだけれど、コールクラフトの黒工房を探しているの。心当たりはあるかしら?なければここから出る道案内を頼みたいの」
「フフフ、仔猫は運がいいですネェ。ここが貴女のお探しの
大仰な身振りで、まるで舞台上で演技でもしているように自己紹介をするモラン。仕草の悉くがどこか胡散くさく感じる。実は黒幕でした的なムーブが似合いそうな雰囲気がむんむんとしている。
「それで、キミはクラフターについてどこまで知っているのかナ」
「そうねえ、私が知ってるのは、ガジェットを使って各色の効果が発揮できるってことくらいかしら」
「では、黒の特色もおわかりですネ」
「ええ、もちろん知っているわ。知っているからこそ探していたのだし」
「よろしい。ではエーテルと
「なにそれ」
「おや?これは知らないのですね」
うんうんとなにか納得するような動きでモランは頷く。
怪異と怪人。チュートリアルで説明された、このゲームでのモンスターの役割を持つ存在の総称なのは知っていた。動物や無機物がモチーフになっているのが怪異。人型が怪人。逆さの街が上空に現れると同じ時期にその姿が観測され始めた存在。それとエーテルにどんな関係があるのか、好奇心が刺激される。
「ホホ、その好奇心に満ちた顔、ワタシと同類の気配がしますネ」
「ええ気になるわ。その情報を私以外の旅人のどれほどが知っているかは分からないけれど、世界の根幹に関わりそうな考察はとっても」
口を潤す為にモランは紅茶に口を付ける。
「根幹という程でもないサ。一部の組合の代表と国の上層部くらいしか知らないことだがネ」
「国家機密じゃない!なんでそんなレベルのものを出会ったばかりのそれも旅人風情に教えちゃうのよ!」
あまりの事にカップが倒れるのも構わずにテーブルに思いっきり手を叩きつけ立ち上がる。
「まあまあ、落ち着いて座ってくださイ。ワタシ、べつに国営組合に所属していないですシ、それに旅人たちはいずれ知ることになりまス。遅いか早いかの差でしかありませン」
モランは悪びれることなく優雅にティーカップをソーサーに置き、いつの間に用意したのかチーズケーキを味わっていた。
「詳しく説明するのも面倒なので、端的に言ってしまえば、怪異と怪人はエーテルによって変質した伝承と欲望が形を持った存在ということですネ」
「これ普通、もう少しストーリーが進んだら判明するタイプの情報とかじゃない……」
「ハハハ、そう言うこともアリますよネ」
ゴトリとテーブルの上に小型の拳銃に似たモノが置かれる。
「これがガジェットですヨ。それでは我々がクラフターと呼ばれる所以。ガジェットを作って(クラフト)みましょうカ」
妖しい笑みを浮かべたモランは、私の手を取り工房の奥へと向かって行く。
「ち、ちょっと待って!お菓子まだ食べきってない!」
皿の上に残ったクッキーに後ろ髪を引かれながら必死にそれについていった。
【プロトプロット】クラスとスキルが悪役令嬢になれと言うので、やられ悪役令嬢を目指す事にしました。 @7938995
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