第421話 ほーわ潜水とは、法話ではない

 人がいわゆる酸素ボンベを背負った『潜水』をした場合……

 水圧のかかる環境下、3、40メートルで限界である。


 ならば、今回発見された水深100メートルのダンジョンに潜る場合は?


 『飽和潜水』を行うことが必要である。


     ☆     ☆     ☆


 「ほーわ潜水?」


 コテンと首を傾げる青。

 白と水まんじゅうも、コテン。


 いや、可愛い?なぁ、21歳。

 流行りの悪役令嬢か、お前は⁉️

 絶対漢字がわかってない。


 あと、従魔と仲良し♥️


 大学がテスト期間に入るまで、残り1週間だ。


 現地で作戦に入る前にと局長室に来てもらい、桶谷が現状を説明する。


 報酬は、隊の食堂で晩飯食い放題だった。


 意外にも、仕草が可愛かった大男についての言及は避けるが……


 「俺もド文系だし、正確には無理だぞ。」


 前置きしてから桶谷が解説した。


 まず前提として、人間の体は1気圧の世界に順応するように出来ている。

 それが地上であり、そこで呼吸し暮らしている以上、体には多くの気体が溶け込んでいる。


 で、一方水深100メートルの世界は。


 10メートル潜るごとに1気圧増す世界だから、11気圧の世界。

 通常の11倍の力で圧し潰される世界だ。


 体の中の気体の部分が潰される上、そこから戻る時には一気に気泡になる。

 体内で気泡が生じるので命に係わる。


 だから船上で加圧室に入り、これ以上溶け込めない飽和量の気体を体に溶け込ませて……


 で、加圧室ごと潜水する。

 深海で作業しても、体は飽和量の気体で満たされているため作業可能。

 その後加圧室に戻り、加圧したまま船上へ。


 「で、船の上でゆっくり体を元の環境に戻す……だったかな。」


 桶谷の説明に、青、チンプンカンプン。


 「え?

 なら俺も、そのほーわ潜水をしなきゃなんねえの?

 白は?水まんじゅうは?」


 ただでさえわかっていないのに、

 「いや、それが相手がダンジョンだからこその心配があってな。」

 とか言い出すから、よけい訳が分からないよ。


 「ダンジョンは理屈はわからないけど、いわゆる異空間だろ?」

 「?」

 「地下に潜ったはずなのに『空』が見えたり、異常に広かったり、砂漠だったり、雪原だったり。」

 「あ、ああ。」

 「だから、飽和潜水で深海に慣らしているのに、ダンジョンに入った途端に地上と同じ世界になる心配があるんだ。」


 体が深海用になっているのに、いきなり1気圧の世界に放り出されれば、それで死ねる、確実に。


 自衛隊外局では、海底ダンジョンの1階層が『東白楽ダンジョン』の10階層と同じと想定したのだ。

 砂浜があり、そこから海が広がる。

 海から水棲モンスターが溢れている。

 

 「ただ、海の底ではモンスターが溢れ続けているわけだし、スタンピードは止めないとまずい。

 魔魚から取り出した魔石の大きさから判断して、あいつらは精々スライムかオーク程度だ。

 ダンジョン周囲に溢れているモンスターの一掃と、中に突入する組、2班に分けることにしたんだよ。」


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