第415話 魔魚の流通とこの先と

 その日の夕方、底引き網漁船の船長の帰りを待ち、漁協の上役達と自衛隊外局の会議が開かれた。

 青はオブザーバーとしての参加で、橋渡しをした大輝も当然参加だが、偉い人ばかりでアワアワしている。


 「蓮沼。」

 と、青が声をかける。


 「は、はひ。」

 「自信を持って胸をはれ。

 君が俺らを連れて来たんだ。

 君がちゃんとした画像資料まで用意して、君が書いた文を読んで俺らが来た。

 君だから出来た。」


 青は思っていることしか言わない。

 いい加減な嘘やヨイショで場をまとめるなんてしないから……


 それを知らない大輝にも、力強い言葉となり支えとなる。

 青年の背筋が伸び、やっと改めて前を見た。


 「魔魚の流通だけど、取り敢えず2週間くらい待って欲しい。」

 「「「えっ?」」」


 邦子の言葉に、漁協関係者は驚きを隠せない。

 『そんなに早く形になるの⁉️』

 と言う驚きだが、

 「ごめんね。場所が微妙なだから。」

 と、邦子は申し訳なさそうな顔をした。


 魔魚が水揚げされるのは、下関からの沖合い底引き網漁。

 漁場は隣国である韓国との間だ。


 スタンピードしているダンジョンを探す。

 これは『絶対』だが……


 日本領海ならいい。

 そして韓国領海なら、これもまた『韓国のもの』でいい。


 韓国にはダンジョンが無い。


 どのくらいの深さにあるのか?

 どうスタンピードを止め、どう利益化していくか、問題は山積みでも喜ぶだろう。


 1番ヤバいのは、ダンジョンが両国の境界線にある場合。

 互いが領有権を主張している場所だと……


 「向こうにはダンジョンが無いし、心情的には譲ったっていいんだろうけど、それだと領土を譲ることになって国としては不味いことになるし……」


 だからこその2週間だ。


 魔魚を発表すれば、スタンピードしたダンジョンに触れないといけない。

 その場所が問題になる確率が高ければ、先に調べたい、アドバンテージだ。


 「ああ。」

 「なるほど。」


 漁協関係者は納得し、

 「それに2週間後だと2月下旬、大学はテスト期間だし、講師様は空いてるでしょ?」

 邦子はニヤリ。


 青、強制参加が決定した。


 まあ、いいけど。


 「その間は魔石の扱いでもつめておいて。」


 魔魚、普通の魚の脳の位置に魔石があった。


 大きさは、ゴブリンからオークの魔石のサイズ。

 確実に数100円にはなるのだから、現地で魔石を取り出してから流通に乗せるか、魔石代分を高くして卸すか、見映えや手間の問題もあり、確かに話をつめねばならない。


 「あと、蓮沼君のことだけど。」


 話題をふられた途端、船長が少しだけ悔しそうな顔をした。


 彼は本音では、真面目な大輝を買っていたのかもしれない。

 けれど、多分『愛の鞭』のつもりの他の船員達の態度も、積極的に止められず来た。


 だから、諦めねばならない……


 「蓮沼君はうちが貰うね。

 研究者向きだし、本人に了承もらったし。」


 蓮沼大輝は士長待遇の軍属として自衛隊外局に所属、半年の試用期間を経て三曹に任官する予定だ。


 青年は自衛隊外局所属の研究員になる。

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