第412話 魚角の印章と言うと生臭そうなイメージですが、実はかなり質がいいです

 「えーっと、これが異常な魚のサンプルです。」


 大輝がクーラーボックスを開けると、邦子がその中身を見つめ動かなくなり、青がモノクルと呼ばれる片方だけの眼鏡をかけた。


 「『鑑定』持ちと、青君が使っているのが『鑑定モノクル』ね。」


 そらが平淡に説明する。


 「……本気で(順応済み)って出てるな。」

 「うん。って言っても種類多過ぎでしょ⁉」

 「一角ウオに、一角うなぎって、ややこしいな、名前⁉」

 「あと飛行ウオに、メノミって『目のみ』ってこと⁉」

 「蛸と烏賊を混ぜたようなの、タコカって⁉ふざけてるの、名前⁉」


 「あ、それ一部です。まだ種類あるかも。」


 声をかけると、

 「「マジで⁉」」

 と声が揃う。


 仲いいなぁ、自衛隊外局とトップ探索者。


 「水揚げの3分の1くらいが、そういうおかしな魚になってしまって。

 昨日の分は、一応すべて保管してます。」

 「どこに?」

 「漁協の冷蔵庫に。」


 ならばと、漁協に移動することとなった。


 「沖合底引き網の3分の1って相当な量でしょ?

 普段はどうしてるの?売れないでしょ、これ。」

 「ええ。最初は少なかったから、個々で焼却処分していたんですよ。

 でも途中からシャレにならない量になって。」

 「「「あー……」」」

 「最近は野焼きしてます。時間になると、野良犬や野良猫、野良ガラスが集まってきて……」

 「あー、ご馳走の時間。」

 「カラスは基本『野良』でしょ。」

 「あ、そっか。」

 「あー、でも。」


 「勿体ないな。」

 と、青がつぶやく。


 「勿体ない?」


 心底意外な顔をする大輝はまるで気付かない。


 まあ、それはそうだ。

 

 『鑑定』魔法か『鑑定モノクル』でもない限り、食べるには度胸のいる魚達だ。

 

 気軽に食べる奴、マジ勇者。


 「食えるよ、こいつら。」

 鑑定結果を伝えると、

 「マジで⁉」

 と目を丸くした。


 「かなりうまいらしいし、こいつらも楽しみにしてる。」


 従魔をポンポンなでるように叩く、若いトップ探索者の目に嘘はない。


 「漁協、調理スペースある?」

 「あります。」

 「じゃあ、借りて試そうか。そらちゃん、お願い。」

 「邦子さん……」

 「ほら。そらちゃん、新婚で慣れてるじゃん。」

 「竜斗さんも同じ職場ですし、隊で食べることの方が多いですよ。」

 「お願い。」

 「上手くないですよ、そんなに。」


 不精不精承知するそら。


 「あー、でも象牙もどきも勿体ないな。」


 一角ウオの角は象牙と同じ。


 青の言葉に反応する大輝。


 「あ、やっぱり象牙と同じなんだ。」

 「?」

 「あ、俺どうしても気になって、家の倉庫に眠っていたって言って、一角ウオの角と一角うなぎの角、町のはんこ屋に持ち込みました。」

 「えっ⁉」

 「どうなったの⁉」

 「……」

 「多分一角ウオの方は、

 『最高の象牙だ』って、実印を作るように言われました。」

 「作ったの?」

 「ええ、持ち込んだ以上。」

 「……」

 「一角うなぎは、生臭くて柔らかくて、変なものだって。」

 「ああ。出汁がよくとれるって出てたから。」

 「出汁⁉」


 話しながら、おとなしい情報提供者がなかなかに凝り性と言うか、こだわるタイプと知って。

 にんまりする邦子。


 象牙(扱い)の実印では結構な値段がしただろう。

 下手をすると10万以上。


 物事の検証のために惜しみなくお金をつぎ込める、蓮沼大輝は研究者向きだ。


 これはいい出会いになるかもしれない。





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