第411話 一風変わった人達と奇妙な魚と
「おはよう。あなたがメールをくれた蓮沼さんでいいのかな?」
『おはよう』が似合わない、日の出前の冬の漁港で、白衣の女性が手を差し出した。
まさか『適正気温のペンダント』を使っているとは思わない。
寒くないのか心配しながら、
「はい。」
と、頷く大輝。
「私は自衛隊外局の野中です。」
「蓮沼大輝。遠洋底引き網漁の漁師です。」
「よろしく。」
手を握り返しながら。
『そう言えば』と、大輝は気付く。
『自衛隊外局の野中』と言えば、『自衛隊外局副局長』であり、『陸上自衛隊一佐』でもあり、世界的に有名なダンジョン研究者『野中邦子博士』でもある。
彼女は肩書を言わなかった。
まあ、邦子らしい話であり、おいおい付き合っていけば肩書などを重視しない、破天荒なタイプとわかるのだが、大輝には奇妙に映った。
所属している底引き網漁船でも、『船長』はそういうタイプではないものの、
「漁労長の××だ。」
「一等航海士の▽だ。」
「俺はもう20年も船に乗っているんだ。」
と、最後のは何を自慢しているかわからない、必要もないのに肩書や余計な情報をつける……
己を大きく見せたい人に溢れている。
人には承認欲求があり、少しでも自分の価値を主張したい。
それが当たり前なのに?
「こっちが『戦乙女』の桶谷そらちゃんで、」
「『戦乙女』、止めてください。」
「そらちゃんを端的に表すなら、それなんだけど。」
いや、『自衛隊外局局長夫人』で、『陸上自衛隊一佐』とか、いろいろあるはずなのに?
そらもやはり肩書を言わない。
「で、こっちは『ダンジョンプリンス』赤井青君と愉快な仲間達ね。」
「『ダンジョンプリンス』は止めてくれ。俺はメロンか⁉」
「「「⁉」」」
誰にも理解できない切り返し。
一瞬間をおいて、
「ああ。じゃあ、『クラウン』にでもしとく?」
と、邦子が返す。
プリンスメロンと、クラウンメロン。
いや、わかりにくいよ。
『ダンジョンプリンス』が嫌なら、『スタンピードバスター』、『ラスベガスの奇跡』など、いろいろある。
これはいい意味か微妙だが、日本でも考え違いをしていた上級探索者を捕まえたりしているので、ちょっと甘えた連中からは『ダンジョン警察』とも呼ばれている。
あとは従魔を連れた姿から、『魔物使い』も。
とは言え、赤井青も肩書を名乗らない人間らしい。
「探索者の赤井青だ。」
と短く言って、手を差し出してくる。
『変わった人達だな』と思った大輝だったが、嫌な印象ではない。
今まで出会ったことがないタイプの大人達だ。
いや、赤井青に至っては、ほぼ同年代なのだが。
「蓮沼です。この度はよろしくお願いします。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます