第410話 落ちこぼれ船員、予想外の大物を釣り上げる

 文章を書くのは骨がおれた。


 19歳、事務経験無しな大輝には、どう書くべきかさえわからない。


 ネットで定型文を調べるも……

 どう使うべきか、何が正しいかさえわからないよ。


 結局『丁寧に書く』以外無く、

 『添付画像通りの異常な魚が、大量に水揚げされています。』

 『もしかして……

 モンスターではないかと思います。』

 『でも、消えたりしないで、実体があります。』

 『普通の魚の水揚げが減っています。』

 『助けて下さい。』

 と書いた。


 数時間後……

 『面白そうなんで明日行きます。

 漁師さんってことは、早朝でもいいよね?』

 『自衛隊外局。』

 と返ってきた。


 いや、軽っ⁉️


 まあ、

 『来てくれるのは助かるし』と思ったものの、せっかく来たのに現物が無いでは話になら無いと気付く。


 大輝は慌てて船に連絡、奇妙な魚達を処分しないように頼んだ。


 すると夕方暗くなってから、

 「ほら。」

 と、先輩が届けてくれたのは、漁協のレンタル冷蔵スペースの鍵だ。


 そこに魚を取っておいてくれたらしい。


 嫌な予感に駆け付けると!


 「うわ、やっぱり。」


 かなり広い冷蔵庫(人が入って作業出来るまさに『部屋』だ)が、奇妙な魚でいっぱいだった。


 売り物にならないからと、これまでは焼却処分していた。

 ただ、日増しに増える処分量に辟易とし、一応焼けば魚のいい匂いがしてしまい、犬、猫、カラスが集まり放題。

 嫌になっていたところだから、渡りに船だったのだ。


 今日の水揚げの異常分、全て冷蔵保存されてしまった。


 大は小を兼ねると言うが……


 このままだと説明しにくい。


 大輝は大きめのクーラーボックスに、角付きの魚、ヒレが大きな魚……

 と、目につくものを1匹ずつピックアップし、準備する。


 不器用だから時間がかかる。

 胸まである胴長を履いて必死で作業、終わった時は深夜だった。


 風呂に入り、やっとうとうとした頃アラームが鳴る。


 沖合い底引き網漁の船員だ。

 朝早い出港に合わせ、アラームは3時……


 しまった‼️

 解除し忘れた‼️


 飛び起きた大輝は、ベッドに座り込んだ形のまま、また眠りかけていた。


 と、スマホの着信音。


 『今近くの基地まで来ました。』

 『1時間程度でそちらに着きます。』 

 『自衛隊外局。』


 時計は3時半を指していた。


 いや、早いよ‼️


 結局大輝はほとんど寝ずに、待ち合わせの漁港に急ぐこととなる。


 かろうじて免許を取った原付に、安定性がヤバくなりそうな、巨大なクーラーボックスをくくりつけて……


 大輝が漁港に着いたと同時に、自衛隊らしいジープも来た。


 最初に助手席のドアが開き、降りてきた人に唖然とした。


 あまりに軽い対応だったし、勝手に若い、下っ端隊員が来ると思っていたのだ。


 助手席から出てきたのは、平均身長でしかない大輝より遥かに背の高い、クールビューティな顔立ちの有名人。


 戦乙女、来ちゃったよ。


 「いや、悪いね、少年。

 楽しみ過ぎて早く来ちゃって。」


 運転席からはメガネに白衣の女性が降りる。


 野中邦子博士、その人だ。


 「まったく。

 相変わらずだな、邦子さん。」


 そして、後部シートから降りてきた集団?に、腰を抜かしそうになる大輝なのだ。


 スポーツ選手なみの2メートル近い長身の若い男と、最近では彼の付き物となっている、巨大な白い犬と透明なスライム。


 いや、トップ探索者来ちゃったよ。


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