第405話 (15章おまけ➁) 巨大竜巻、上から見るか、下から見るか

 わたしが生まれ、9歳の今まで住んでいるのは、アメリカのテキサス州だ。


 石油と天然ガスと、牛肉の州だ。

 ヒューストンやダラスがあるが、私が育った町は主に『牛肉』の方。

 ロデオもあり、いわゆるカウボーイ気質を大切にしている。


 そう言えば、今はダンジョンに潜る人もカウボーイと言うけれど、似ているのかな?

 わからない。


 海岸沿いとまでにはいかない、ネバダ州やアリゾナ州にもダンジョンはあるが……

 テキサスにはない。


 テキサスは竜巻の街だ。


 竜巻がアメリカ1多い州。


 なんでそんな場所にと言われてしまうが……


 わたし達はこの場所に住み続ける。


 父や母の前の代から……

 いや、おじいさんやおばあさんの前の、さらに前の代から、住んでいる場所だ。


 移住はしない。

 でも竜巻は来る。


 覚えていないが、わたしが2歳の時に一度街は壊滅しているらしい。


 うちの家も吹き飛んだって。


 それでも人は暮らしている。

 男達は、近くの製油所か、牧場で働く。


 わたしの父はロデオの選手。

 暮らしていけるところまで儲けるのは難しい筈が、何とかなっているのだからちょっとだけ凄いのだ。


 竜巻のシーズンは4月から6月。

 今は冬だから、みんな『まさか』と思っていた。

 テレビは繰り返し伝えている。

 『全米各地に竜巻注意報が発令された』って。


 でも、『まさか』だからわたし達はベッドに入り眠っていた。


 夜中に警報が鳴り響く。

 

 「くそう‼冗談だろ⁉」

 「12月なのに、なんてこと‼」


 父と母が騒いでいる。

 15歳の兄も、14歳の姉も、そしてわたし、今5歳の弟も連れて、全員で地下室に避難するために動き出す。


 途中チラリと見た、夜空が赤く燃えている。

 製油所に竜巻が入ったのかもしれない。

 ゾッとした。


 「全員いるな⁉よし、ふたを閉めるぞ‼」


 家族を確認、父が地下室を閉めようとしたその時、家の前からかなり大きな、車の急ブレーキが聞こえた。


 我が家は街のはずれにある。


 誰かが訪ねてきたと言うより、誰かが竜巻を避けてきたとわかる。


 街の外から来たのだろう。


 グズグズしていたら間に合わなくなる。


 父が地下室を飛び出した。


 「早く家に入れ‼まだ数人なら地下室に入れられる‼早く‼」


 この期に及んで他人を思った。

 わたしは父を尊敬する。


 と、

 「ああ、大丈夫大丈夫。俺らが守るから。」

 暢気なセリフを返してきた車の脇に立つ大男を、わたしの父は知っていた。


 「あんたは……」

 「ラスベガスの英雄?」

 「赤井青だ。」


 いつの間にか、家族全員地下室を出ていた。

 

 迫りくる竜巻が、深夜なのに視認出来る。


 製油所がやられたことから、つまり炎を孕んだ火災旋風となった、そう言うことだ。


 もう『神に祈る』以外方法がない、その時。


 「紺‼結界行けるか⁉」

 「任せてください‼」


 あれ、どうなっているのだろう?


 キツネの耳と尻尾のついた少女が、何かしたことだけ直感でわかる。


 火災旋風からの赤が、あの日ネットで見ていたラスベガスの結界が顕現したと伝えてきた。


 何かが街を守る不可思議の中、竜巻が安全距離を取ったうえで頭上を通り過ぎる光景を。

 そして夢のように消えた奇跡を。


 わたしは一生忘れない。

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