第404話 (15章おまけ①) 窓口青年のやり直し

 その日、俺は仕事で大失敗をした。


 彼は、あまりに幼い顔立ちをしていたんだ。


 体ばかり大きな、東洋人の小僧と思った。


 あんな子供に金なんかある筈がない。

 冷やかしだったら帰ってくれ。


 ただ、相対的に東洋人は若く見られることを忘れていた。


 彼はとっくに成人した大人で、しかも我が街ラスベガスにとって、州知事なんか問題になら無いくらい……

 いや、アメリカにとってすら、大統領に並び立つくらいのキーパーソンだったのだ。


 もう4か月になるか?

 ラスベガスでダンジョン災害が起こった。


 魔物が溢れる『スタンピード』と、今回言われている『ダンジョン反転』は、何が違うのかよく分からないが……

 溢れた。

 街をモンスターが闊歩した。


 俺の家は、起点となったFダンジョンから200メートル少しというところか?


 両親と住んでいた。

 俺は未婚で一人っ子だ。


 先に俺達が住んでいて、後からダンジョンが現れた。


 『ダンジョン反転』はカウボーイ協会の失策らしい。

 

 俺も両親も、カウボーイというダンジョン探索者の存在を、あまりプラスにとらえてはいない。

 カウボーイは15歳からなれる。

 ハイスクールにさえ通えない輩か、大学などに能力か金銭かで進学できない人間の受け皿で、一部トップと呼ばれる人間は年収も桁違いだが、その他大勢は……


 肉体労働者で、俺達ホワイトカラーに導かれる存在だ。


 俺は大学まで行く能力には欠けていたが……

 短大を出て、だからこそ事務職に就いている。


 資格を取ってステップアップして、いずれ店長を目指すつもりだった。


 そんな俺が、ブルーカラーどもの失策で両親を失うこととなるとは。


 もう絶対駄目だと思った。

 起点との距離が近過ぎる。

 

 職場にいた俺は急いで戻ってきたものの、家には近付くことも出来なかった。


 しかし……


 避難所で巡り合う。

 万を超える死者の中、両親は生き残っていた。


 『ラスベガスの英雄』、あの日本人探索者(日本ではカウボーイじゃなく探索者らしい)だ。


 「すごかったんだぞ、本当に。」

 と父親が言うには、あの男はウルフに襲われ内臓が出るレベルの大怪我をした父親と、泣き叫んでいた母親を救った。


 圧倒的な強さで、一般人には太刀打ち出来ないウルフの群れを瞬きほどの間に殲滅し、

 「これだと、もたないか。」

 と、父親の傷にラッパ飲みをしていた液体をかけた。


 その正体は、

 「ギリギリだから中級掛けといた。」

 「オッケー、兄貴。」

 と言う、結界の外で待機していた彼の妹との会話でわかるのだが。


 中級回復薬でもたされた父親は、妹の回復魔法で全快した。


 俺達がひとまとめで嫌っていた、カウボーイが救ったのだ。


 彼らになら頭を下げてもいい。

 お礼を言わねばならないと思っていたのに‼


 謝罪も拒否されて、同じ日に店長から呼び出された俺は、叱られるものとして出頭した。


 彼は、『ラスベガスの英雄』を知らなかった、それ自体は責めなかったが。


 「この店は『WhiteOnly』じゃないよ。」


 それは、俺の中にあるさらに醜い感情を看破した一言だったのだ。


 俺は……


 反省せねばならない……


 俺は……


 馬鹿だ……


     ☆     ☆     ☆


 後日竜巻が落ち着きを見せ、レンタルしたキャンピングカーを返しに訪れた青達の前に、窓口業務は外されたのだろう。

 それでも腐らず店回りの掃除をする、スーツ姿の男の姿が目に入った。


 「兄さん、あれ。」

 「ああ。」


 男の顔は不自然に腫れ、『殴られた』とわかった。


 彼は両親に、しっかり懲らしめられたらしい。


 「頑張れよ。」

 

 片手をあげて見せる青に、腰を折って最敬礼した。


 彼は変わろうとしている……






 ファンタジー世界とは言え、微妙な問題に触れさせていただきましたm(_ _)m

 変わり行く世界の中で、どうか誰もが自由に生きていける未来をお祈りします。






 


 

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