第355話 プリンスに病院は似合わない

 青は基本風邪をひかない。


 ……

 いや、

 『馬鹿は風邪をひかない。』

 みたいに言うな‼️と、本人からクレームがきそうだが、幼い頃から熱も出さず、年中元気な健康優良児だ。


 まあ、たまに元気過ぎて怪我はしたが。


 そんな元気な男が中1でレベルを得てから、10年近く病院には行っていなかった。


 だから緊張する。

 びょーいん怖い(笑)


 ましてや産科なんて門外漢過ぎるから、大男が首をすくめ、小さくなって入っていった。


 「え?」

 「ちょっと、あの子って?」


 とは言え、どうしたって目立っていたが。


 「うおーい。来たぞ、俊太。」


 なんとなく、声を抑えてしまう。


 聞いていた番号の部屋に顔を出すと、

 「あっ⁉️来てくれた、青‼️」

 「あはは、本当に来たよ。」

 ベッドに横になって笑う小春と、付き添っている俊太。


 意外と余裕?


 と思った途端、

 「うっ……」

 顔をしかめた小春が耐えるように身をよじり、アワアワと俊太が腰をさする。


 少しして、大きく深呼吸して落ち着いた後、

 「ありがとね、青君。来てくれて。」

 と笑った。


 「ずっと痛い訳じゃないの?」

 「違うらしいぞ。波?があるんだってよ。」

 「いや、なんでお前が得意気なんだよ。」


 いや、大騒ぎのわりにはお前も余裕じゃないか。


 と思った直後、

 「あっ……

 また腹が……

 青、ちょっと頼んだ‼️」

 俊太は速攻トイレに消えた。


 いや……

 なんと言うか……


 「あいつ、ずっとあんなんなの?」

 「うん。

 ぐう……

 はあっ。あんなんだねぇ。」

 「いいの?」

 「いいよ。」

 「小春さんがいいならいいけど。」


 俊太、子供が生まれるのが楽しみで、嬉しくて、心配で、感情が大迷走して、腹を下した。


 いや、なんで?


 旦那じゃないしさする訳にもいかない。


 陣痛に耐える小春の側についてはいたが、

 「はい。柳川さん、そろそろですよ。

 内診しますね。」

 医師らしき、白衣の中年女性が入ってきたので……


 さすがに知識くらいはある。

 青、廊下に退散する。


 探索者なんかやっていると、素の身体能力も普通を越える。


 青は目もいいし(たぶん数値化すれば10.0を越える)、耳もいい。


 耳を『澄ます』……

 と言うより、耳に『力を入れる』と、周囲の声が聞こえてくる。

 

 小春は痛みに強いのか、それとも長女の習性か?

 静かに耐える気丈さだが、大騒ぎしている人もいる、泣きわめいている人もいる。


 ただ皆共通して、新しい命のために痛みに耐えて……


 すげえな、女の人。


 素直にそう思っていたが、青が落ち着いていられたのはここまでた。


 「あっ⁉️旦那さん、ここにいたんですか‼️

 もう生まれますよ‼️」


 旦那さん?


 「立ち会い出産ご希望でしたよね?」


 は、はい?

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