第351話 プリンスと黒い猫
続いて大騒ぎになったのは物流業界。
プラス、引っ越し業界か。
映像の中で青がポンポンマジックバッグ(実際は『倉庫の腕輪』だがそこは重要ではない)を使うので、嫌でも目が行く。
「なんだ、あれは⁉」
「2ℓのペットボトルが出てきたぞ‼」
「剣をしまったぁ⁉」
見た目はウエストポーチだ。
まあ、青がつけているのは日本版であり、ポーチと言って過言では無いイギリス版より気持ち大きめだが、それでも小さなただのバッグだ。
イギリスはスタンピードを起こしたダンジョンから、日本は富士ダンジョン(プラス内緒の赤井家ダンジョン)からドロップし、日本版は一回り以上大きく、肩掛けバックに変えられるギミック付きだ。
「あれだけ出し入れできるってことは、マジックバッグAなのか⁉」
物流に革命が起きるアイテム・マジックバッグは、出現時かなりの話題になった。
イギリスで発見されたが、その後日本の『富士ダンジョン』でもドロップするようになり期待されたが……
マジックバッグは探索者である以上まずは売らない、自分で使う一択だから、市場にあまり出回らない。
容量の少ないBやCなら売られることもあるが、ザック3杯分と1杯分では、物流業界的に大きな利点はなかった。
手に入れるならA(コンテナ1杯分)なのだが、極小の確立を潜り抜け手に入れた探索者が手放すはずもなく、過去に金に困った初心者が売り払ったケースが1件だけだった。
1000万程度かかることもネックだったが、映像で実際の使いやすさを確認できたこと、荷運び用のトラックを用意しても同程度かかること。
ならば、マジックバッグを付けた配達員が、バイク、ないし軽自動車で配達する方が、コストの面で、エコロジーの面で、あらゆる面で優れているのではないか?
数が揃わないなら、例えば東京から大阪、東京から名古屋など、各地域の拠点への配送だけでもマジックバッグにすれば。
ドライバー不足の問題も解消される。
数名がマジックバッグで、鉄道や飛行機で荷物を運べばいい。
あの大きさなら、機内持ち込みも可能だ。
考え出したらキリがないから、結局町田の会議室をレンタル、青に交渉することとなる。
あの男、絶対、大量に持っている、と踏んだのだ。
それこそ強引に突撃したかったが、金融業界の騒動を聞いていたので自重した。
「うーん、どうすっかなぁ。」
話を聞いて、少し考える青。
「いくら俺でも、これだけの人数……
それも1社に1個あればいいわけじゃない、仕事に使う以上大量にいるものを用意できるほど持ってないよ。」
会議室、50人くらい人がいたし。
悩んで、不意に上げた顔には『鑑定モノクル』が掛かっていた。
「ん-、猫の会社と、ごめん、俺は名前も知らないけど、そこの引っ越し屋さんだけ残って貰えるかな。」
何故選ばれたのか、なぜ選ばれなかったのか?
大体が引っ越し業者の方は地方の中堅、急な指名の意味も分からなかったが、
「その2社だけは社長さんが来てる。それだけ熱心なんだと思ったから。」
それが理由。
『鑑定モノクル』の前で嘘はつけないと言う教訓が得られた。
選ばれた2社に、手持ちのマジックバッグAをまとまった数、売った。
ダンジョンアイテムがまた1つ、日常を便利にしていく……
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