14章 プリンスとプリンセスと日常の迷宮

第350話 プリンスの賢くない資産運用(=しない)

 誰かが一歩抜け出すと、外野が騒ぎ出すものである。


 宝くじが当たると親戚(ただし見たことも聞いたことも無い)が増える、と同じ理屈だ。


 今回顔も名前も隠すことなく、ネットのライブ映像に現れた赤井青と2人の妹。


 何度も反転したダンジョンに飛び込み人を救い続け、終いにはダンジョン中ボスを世界初討伐、悲劇を終わらせた赤井青。

 運び込まれる怪我人を、片っ端から完全回復した赤井ひまわり。

 広がろうとするダンジョンを、結界で押さえ込んだ赤井紺(しかも獣人)。


 イギリスのスタンピードを解決した時は規制がかかっていた、赤井兄妹の『想像斜め上の正体』が白日の元に晒されたのだ。


 まあ、覚悟の上だし、本人達は気にもしていないが。


 で、こうなって最初に動き出したのは金融関係だ。


 赤井兄妹、どう考えても『金を持っている』と騒ぎになったのだ。


 ただトップ探索者だし、金があるのは当然と言えば当然なのだが、青の普段がそうは思わせなかった。


 夏の青は、Tシャツ(1000円以下)に、作業ズボンか戦闘服のボトム(5000円以下)。

 靴だけは、規格外に背が高いゆえ足のサイズも大きい。

 だから、選択肢が少なく数万円のスニーカーだ。


 その上で、ダンジョンに行く気がない時はビーサンを履きかねないいい加減さ。


 高価な時計などはつけておらず、ブレスレットを左右の手首につけているが、ノンブランド(実は『倉庫の腕輪』と『制御の腕輪(+)』)だし大したものでは無いと思われている。


 あと、1つか2つ、ペンダントがついているが、これは明らかに魔道具だ。


 ウエストポーチはマジックバッグ。


 ダンジョンに潜る時は、これに使いふるされたプロテクター(初心者装備のまま)と、猫の顔が描かれた半キャップだから、誰が金持ちなんて想像しようか。


 しかも20歳そこそこの若者で、

 『これは騙せる‼️』

 と思った悪意ある業者や個人、

 『タンス預金なんかにしないで世間に還元してくれ‼️』

 と思った真っ当な業者が、大挙して赤井家に押し寄せた。


 いや、押し寄せようとして、迷った。


 赤井家も、青のマンションの部屋も、『認識阻害の置物』で守られているからねぇ。


 ちなみに青、彼らの目論見通り結構な……

 それこそ何処かの大会社並みの資金はあるが、全部地元の地方銀行に放り込んでいる。


 しかも、普通預金。


 天文学的数字から、下ろしても数10万円の世界で暮らす青年に、銀行員達のチベスナ顔が止まらない、らしい(笑)


 で、青をどうしても捕まえたい業者達は、最終的にはダンジョン前に押し寄せることとなる。

 

 大学が始まれば、彼は火水木の週3日間、必ず講師としてダンジョン行く。

 防衛大学、日体大学、慶応大学とも、今は町田を使っている。


 「赤井さん‼」

 

 で、町田の入り口で1人の男に声をかけられた。


 彼の背後には数10名のスーツ姿の男達。

 集団の中から抜け駆けをしたのが彼であり、それだけ必死だったのかもしれない。


 「なに?俺今から授業なんだけど。」

 「そんなことより、お得な金融商品に、……‼⁉」


 瞬間膨れ上がる濃密な気配に、男は服のまま水中に投げられたように、息が吸えなくなる。

 『威圧』に近い、完全な『怒り』を叩きつけられたのだ。


 「そんなこと?」

 と問われ、男は完全に持って行き方を間違えたと知る。


 「そんなこととは?俺、これが仕事なんだけど。」

 「い、いえ……」

 「馬鹿にしてる?」

 「いえ、決して……」


 いや、本音ではしていた。

 力があるために金があるだけの馬鹿と断じ、

 『うまく騙して金を掠め取ってこい』と、悪徳上司から言われてきている男なのだ。


 「でもまあ、皆さんは俺に用事があるのでしょう。16時にはダンジョンを出ます。そのあと会議室でも借りておきますので、今は出直してください。」


 後ろにいた別の金融業者の男達に言った後、

 「で、あんた。」

 いつの間にか、『鑑定モノクル』をかけた青が言う。


 「あんたの後ろに、ろくでもない連中の影が見える。俺は反社の資金源なんかにならないから、諦めるように言っておいてよ。

 俺が直接手出しするのもあれだから、この組の名前は上に報告しておくからさ。

 帰って会社があるといいな。」


 数日後、ある中堅暴力団が警察のがさ入れを受け、解散に追い込まれるほどの逮捕者が出た。


 通常なら、反社同士のバランスが云々、なんで正義側がそんなことに気を使っているのか?な警察も、今回は容赦がなかった。


 赤井兄妹がアメリカの永住権を持ってしまったからか。

 国の意図が働いているのかもしれない。


 このイベントで後ろ暗いところのある業者が脱落、残りの半数ほども断られて終了した。


 「別に、本気で金が欲しいならダンジョン潜るし、資産運用までしたいと思わないよ。

 黙ってて増える金なんか、気持ちが悪い。」


 欲のない人間は騙せない、そういうことだ。


 少しだけいた真っ当な業者さん、合掌。


 

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