第347話 (13章おまけ⑤) 『クラッシュナイト』の始まりと『学校』

 注)時々ある真面目モードというか、結構気    の毒で暴力的な展開が2話続きます。

   苦手は方はご注意を。




 あの日ボクは学校にいた。


 大人達は『ゼロの日』とか『クラッシュナイト』とか呼ぶ、ダンジョンが溢れ出したあの日……


 もう下校時間は過ぎていて、学校前はスクールバスで帰る人達、家族の迎えを待つ人達、そして実際車で迎えに来た父母達で騒がしかった。


 ボクはスクールバスは使わない。

 パパかママが迎えに来る。

 2人で都合をつけて、どちらかが車で来てくれるのだが、その日はパパが大切な会議で抜けられず、急な変更だったためスーパーの店員さんのママも、どうしてもシフトが抜けられないとか……


 急遽おばあちゃんが来てくれることになった。

 おばあちゃんはうちから10分程度の場所に住んでいるが、人と会う約束があったようで、いつもの時間に遅れてしまうと言われた。

 30分ほど待つことになるので、ボクはクラスの皆と駆け出したりせず、のんびりと帰り支度をしていた。


 ……

 後で言われた。

 もしここで普段通りの迎えが来ていれば、普段通りに学校から駆け出していれば、今ボクはこの世にはいない。

 いや、迎えに来たパパもいないだろう。


 最前列で『クラッシュナイト』に巻き込まれた筈のボクに起きた、第1の奇跡だった。


 「よいしょ。」


 学用品をカバンに片づけたボクが立つ上がるとすぐ‼


 「キャーッ‼」

 「なんだこれは⁉」


 外から大きな悲鳴が上がる。


 「?」


 ボクは気になったので、窓越しに見た。


 多分今この瞬間、同じように窓越しに見た多くの人の前で……

 衆人環視でそれは起こった。


 「「「‼」」」


 人が倒れていた。


 大人のように見えたから、迎えに来た保護者の誰かかもしれない。

 うつぶせに倒れた体の下に、見る間に血だまりが広がっていく。


 目がくらむような……赤……


 すぐそばにはゴブリンがいた。


 ボクはカウボーイに憧れていた。

 ダンジョン内モンスターの図鑑を愛読していたし、だからわかる。

 あれはゴブリンだ。


 なんでダンジョンの外に、それも学校の前にゴブリンなんかがいるんだろう?


 それにゴブリンは緑色だったはずだ。

 なんであんな、禍々しい黒で……?


 倒れた誰かに、慌てて駆け寄ろうとした人がいた。

 7、8年生くらいかな?

 すれ違ったくらいはあるかもしれない、女の子。


 ただ瞬間、その子の右腕がねじ切られ宙を飛ぶ。


 「ギャーッ‼」


 痛過ぎて、濁ってしまう叫び声。


 あまりに凄惨な光景に、ボクは目を見開きフリーズする。


 やったのはゴブリンだ。


 女の子の腕を力任せにねじ切った。


 あれは……

 化け物だ。


 瞬間、学校が揺れた気がした。


 今同時多発的に、いろいろな場所から決定的な瞬間を見てしまった人々からパニックが伝搬する。


 逃げたい。

 怖い。

 死にたくない。


 何が起こっているかわからないまま、

 『ここにいてはいけない』と言う確信だけが皆を動かす。


 混乱と、同調。


 廊下に出たボクは、校内に残っていた人々が一斉に走り出したのに巻き込まれ、流されるように奥へ、奥へと。

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