第346話 (13章おまけ④) 許して欲しい人々
あのダンジョン反転からひと月ほどが経過した。
大統領は約束通り急ピッチの復興を進め……
今日の『慰霊の式典』をもって、反転したダンジョン内に住居があり戻る意思のある住民の、帰還が始まることとなる。
もちろん『戻らない』を選んだ人々への十分な補償が行われたし、優遇措置をプラスしての移住者の募集、一家全滅と言う最大の不幸に見舞われた人々には可能な限り縁者を探し、場合によってはその縁者と疎遠だった『理由』のある者もいるだろう。
早くても、被害者の意思に沿わぬことが無いように、大まかな国民性の国には珍しい、細やかな対応が心掛けられるのだ。
あのレイドバトル参加者は、全員等しく裁判を受けることになっていたが……
日本と比べ結審まで早いとは言え、ショーンとトーマスは超法規的措置と言うか、すでに結審している。
ショーンは、『引き金を引いた』のは確かでも断る術を持たない立場だったこと、その後の英雄的献身が評価され無罪放免。
トーマスも『正しい態度』が評価され、罰金1万ドルで済んでいる。
2人は今晩の式典に参加する予定である。
もう着ける必要もないのに、2人の腕には『制御の腕輪(+)』が。
日々嬉々として剣道と空手を学び、体の使い方を学ぶショーンを見て、やり方を学んだトーマスも後に続く。
基礎を身に付けつつあるレベル190は、実質アメリカ最強だろう。
カウボーイの世界が変わりつつあった。
そして、そんな2人を遠巻きに見る人々がいる。
言わずと知れた、ラスベガスの高レベルカウボーイ達……
あのレイドバトルの中心だったメンバーだ。
彼らは『制御の腕輪(+)』をつけ、公判を待っている状態だ。
そして、このカウボーイ足り得ない1年あまりの時間を使い、支部の清掃員やお茶汲みをしていた。
確実に高額な罰金が予想されることもあり、余計な出費を押さえる必要があるのと、少しは世間を学べと言う配慮でもある。
ちなみに支部長は支部長のまま勤務しているが、これには事情がある。
彼は、アメリカが新しく手に入れた『レベル剥奪のアンクレット』の被験体になることを申し出た。
「事務職が中途半端な真似をして、正しい判断が出来なくなった。
私にレベルは不要です。」
支部長はそう表現したが、カウボーイにとって命の次に大切なレベルを差し出すことで、若干の酌量があり、罰金15万ドルで結審している。
この支部長を含めて……
彼らはショーンを可愛がっていた。
息子であり弟である少年を苦しめ続けた。
「「「申し訳なかった。」」」
と、一斉に謝罪した時、
「別にいいですよ。」
と軽く返された。
ショーン自身思うところが無かったからだが、距離を取られたみたいで悲しかった。
ダンジョン反転のあの日と同じで、彼らはまだモタモタしている。
掛けるべき言葉を探して……
こう言う『他人の気持ちを推し量る』作業こそ、彼らにとって良い訓練になるのかも知れなかった。
『慰霊の式典』で、ダンジョンの怒りを買ったショーンの剣と、カース化しているゴブリンからのドロップだったから禍々しい、あの日の剣は慰霊塔に埋めた。
「うわっ‼️もったいない‼️
カースゴブリンの剣、研究するから売って‼️」
騒ぐ邦子を、カース○○のドロップ品は青の『倉庫の腕輪』にたくさんあるからと、諦めさせたのは余談である。
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