第344話 (13章おまけ②) 牛を許してほしい河馬?

 「『屈服』?」


 ああ、そう言うことかと聞き返すと、

 『そう。完全『屈服』。お前に逆らおうなんて思わんよ、そいつは。』

 と、若干苦み走った声が返る。


 若い女性の声だった。


 ダンジョン内で、メンバー以外の声。

 中ボスは別にいる。


 声はどこかから響いてきて、その主は見当たらない。


 予感があって聞いてみた。


 「まさか、ダンジョンボスか?」

 『そうだな。』

 「クロちゃんとか、中ボスさんしか交流無いから。」

 「大ボスさんは初めてですね。」


 ……

 いや、反応が赤井兄妹。

 慌て無さ過ぎ。


 しばし無言の後、

 『本当に規格外だな、お前ら兄妹。』

 と、ダンジョンボスがため息をついた。


 「で、この馬鹿牛『屈服』だって?」

 『ああ。』

 「俺手順は踏んでないぞ。」

 『手順?』

 「水まんじゅうの時は、体中スライムだらけにして、

 『お前の攻撃など効かん‼効かんわぁ‼』ってのやった。」

 「「『……(呆れ)』」」

 『んなことしないでも、心が折れた時点で『屈服』だよ。

 キング・シャーマン・ミノタウロス・エンペラーは、もうお前に逆らうなど考えられない。完全に負けを認めているんだ。

 責任とれよ。』


 いや、責任とか言われても。


 「しょうがないなぁ。1万回殺しの刑にしようと思ったのに。」


 青が、駄々っ子牛を脇の下に手を入れて持ち上げる。

 でかミノさん、ぐったりしたティディーベア状態。


 「どうするの、兄貴?」

 「しょうがないから日本に連れ帰るか。ばあちゃんのお土産にしよう。」

 「「ああ‼」」


 祖母の泉は、でかいもの好き。

 「大きな子がいたら捕まえてきてね」と言われていたし、ダンジョン農園で働かせてくれるだろう。


 「しょうがない。お前中ボス廃業な。」

 「日本?」

 「おう。仕事はあるし、飯は十分食わせてくれるさ。」


 これででかミノさんの処遇は決まった。


 「んで、このダンジョンの中ボスはどうするんだよ?」

 『どうするも何も作り直しだろう。』

 「なら、」


 これだけの事件を起こした人間達が更に間違うとは思えないが、それでも対策したほうが良い。


 「『1対1』縛りはやめようぜ。」

 『まあな。また何かあると大変だからな。』


 以後Fダンジョンの中ボス戦は、『多対1』も可能な普通の形となる。

 

 ボスは牛頭馬頭。

 東洋的になったし、実際『多対多』だが、この先システムがおかしなトラブルを生むことはない。


 「で、あんたは何者なの?」

 『ベヒーモスだ。』

 「は!?ベヒーモスって、あの河馬みたいな!?」

 『誰が河馬だ、誰が‼』


 ベヒーモス、女声(笑)


 『やれやれ。』

 とため息をついた、ベヒーモスが訊いた。


 『お前ら兄妹は、ダンジョンボスには挑戦しないのか?』

 「「「?」」」

 『パーティープレイなら十分私のところに届きそうだが。』


 実は青、中ボス制覇は実家ダンジョンだけで、富士のアカも、町田のハクも、イギリスの水とも戦ってはいない。


 「俺は意思の疎通が出来るヤツとむやみやたらと戦う気はないよ。」


 ニヤリ笑いの青年に、

 『いや、お前……』

 「兄さん、分かってます?」

 「兄貴。公式で世界初の中ボス討伐者だよ、ここ、ラスベガスで。」

 ベヒーモスと妹ズは分かっていた。


 無慈悲な宣言に、

 「うえっ!?そうか!?」

 と、青が慌てる。


 『いつか此処まで来い、赤井青。』


 去り際に掛けられた言葉に、

 「いつか一緒に飯でも食うか。」

 と、青。


 『どうせなら酒ももってこい。』

 「いいぞ。ビール?ポン酒?ウイスキー?」

 『アルコールが入っていればなんでもいいぞ。』


 ベヒーモスさん、ザルかもしれない。

 

 


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