第341話 この国は英雄を求めている
「その2人を、日本に連れていかないで貰いたい。」
そう言い出すと、
「へえ?」と笑う。
あ、こいつ気付いてる。
単純明快に見える赤井青だが、実は勘がいいのかもしれない。
大統領は一筋縄てはいかなそうな、未来予想図にうんざりして小さくため息をついた。
その2人とは、勿論ショーンとトーマスのことだ。
主にショーン。
大統領はショーンを手放したくない。
だって、彼は……
「英雄だもんな。」
青の言葉に、腑に落ちないのはショーン自身。
「え?なんで、ミスター?
僕は原因であって英雄じゃないよ。」
10代の潔癖さが、真面目過ぎる性格が、自らを否定し続ける今に繋がっている。
ショーンは本気で分かっていない。
「お前はほんとに真面目だなぁ。」
やっぱり青、紫に似てきた。
小さなカウボーイの頭をグリグリ撫でる、子供にするみたいに。
世界一頼りになる、すごい笑顔で。
「このレイドバトルは、確かに名誉欲にかられたそこの支部長が提案したけど、それを上の人間達が承認して、最後は大統領までサインした国家戦略だ。
本当のところは支部長や、そこにいるカウボーイ達個人にも責任なんてないよ。
ラスベガスを壊したのはアメリカだ。
国の愚策に巻き込まれた一般人がやれることなんか限られてるよ。」
「え?でも……」
「それでも責任を取ろうとして、死にかけてた仲間も巻き込まれた住民もただ必死で救い続けた。
胸を張っていいよ、ショーン。
お前は英雄だ。」
「そう言う意味では、こんなめちゃくちゃな状況で自分の罪を告白した、トーマスだって大したもんさ。
言い訳ばっかり、
『俺達は悪くない。』
『許してくれ。』
とか、寝言言ってる連中の100倍マシだね。」
青がギャラリーと化している高レベルカウボーイ達に視線を送ると、
「いや、そんなことないぞ‼」
「俺達だって反省してるし‼」
「私財を投げうって償うくらいの気持ちで‼」
と、またアワアワと取ってつけたようなことを言い出す。
「なら、これ、貸してやるよ。」
マジックバッグから出したのは、何かごてごて装飾のついた足輪の魔道具。
「大統領には、こっちの予備を貸してやる。」
「まさか、『鑑定モノクル』なのか?」
「おう。」
言われるままにモノクルをかけた大統領の国から漏れた言葉は?
「『レベル剝奪のアンクレット』?」
驚いた。
間違った、己の欲求にのみ従って、他人を貶め奪うことのみにダンジョン由来の力を使う、犯罪者達に対抗する唯一の魔道具だ。
日本のみが保有する。
積み上げたレベルという名の実績を元に戻す……
そしてそれを聞いた途端、
「えっ、それは……」
「いや、そこまでは……」
と、高レベルカウボーイ達がしどろもどろになる。
レベルは、高くなればなるほど、それこそ命の次に大切なものだ。
レベルはそれまでの活動の全てで、これからの活動を支える基盤なのだ。
レベルを失ってよいと思えるほど、反省はしていない、口だけなのが証明された。
「まさか、日本から持ってきたのか?」
「そんな暇なかったよ。あれは俺が個人で所有してるもんだ。」
「個人で『レベル剝奪のアンクレット』を?」
「ああ。使いどころが無くてバッグの中に死蔵してた。久しぶりに日の目を見たよ。」
とは言え、『レベル剝奪』は日本でも、
『他者を魔法で攻撃した』などの有罪行為に対してだけだ。
その逃げの姿勢はいただけないが、国の愚策に巻き込まれた、加害者で被害者でもあるカウボーイ達……
青も本気だったわけでなく、魔道具達をマジックバッグに戻しながら、言う。
「大統領、提案がある。」
と。
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