第335話 受難が続く、でかミノさん

 結界を張って、4時間余りが経過した。


 さすがに少しキツくなってきた……


 広がりたいダンジョンと、紺の結界の力比べだ。


 濃度が薄い内は良かった。

 しかし、赤い霧の噴出は止まらず、どんどんその圧力を増して……


 初めは集中せずとも良かったが、今はもう、結界から目を切ることが出来ない。

 意味はないと知りながら、手を伸ばし押さえるような仕草をする。


 「大丈夫、紺?」

 「うーん、少し大変になってきましたね。」

 「どれくらいいける?」

 「あと、1時間もつかなぁ……」

 「そっかぁ。」


 最悪を想定するなら、更なる退避を始めなければならないが……


 「まあ、兄貴が私らに、余計な負担かけるわけ無いし。」

 「あっ⁉️」

 「えっ⁉️」


 まるで聞いていたようなタイミングだ。


 夢を見ていたかのように、フッと圧力が消え失せる。

 最初赤い霧状だった魔素は、逃げ場を失い『絵の具』の赤になっていたが、一瞬で世界から消え果てた。


 ダンジョン反転が起こったのは、現地時間の夕暮れだった。

 今は真夜中。

 

 突然の大事故に、いろいろ日常のまま……

 電気など普通に付けっ放しで、目の前には、当たり前にきらびやかなラスベガスの街が広がっていた。


 「「……」」


 多くの人命が失われたとわかっている。


 しかし、全てが嘘みたいで……


 「やるせないね。」


 そう表現した、ひまわりの言葉が全てを表している。


 『むなしい』し、『悔しい』し、『モヤモヤする』のだ。


 ダンジョン反転は終わった。


 報告があった訳ではないが、それはもう、確実だろう。


 「あとは、あの馬鹿騒ぎだけか。」

 

 呆れたようにひまわりが呟き、

 「はは。」

 と、紺が苦笑い。


 彼女らから少し離れた場所で、いつの間にか増えていた、10人ほどの記者達に囲まれるショーンが、そして今までと違った意味でフリーズする、ラスベガス支部のカウボーイ達がいたのだ。


     ☆     ☆     ☆


 すでにカース化は解けている。


 キング・シャーマン・ミノタウロス・エンペラーは、今1度人間を信じることが出来た清々しい気持ちでリポッポした。


 と、

 「あ、出た出た。」

 「ガウッ。」

 「……(プルプル)……」

 「⁉」

 さっきまで戦っていた、と言うか一方的にやってくれた男が、まだいた。


 いや、真面目に強かった。

 カース化したキング・シャーマン・ミノタウロス・エンペラーが、まったく太刀打ち出来なかった。

 カース化が解けた今、恐らく唯の一太刀も浴びせられない。

 絶対強者が待っていたのだ。


 「えっ?……なんで……」

 「俺、戦う前に言ったよな。

 無知な人間に騙し討ちにされたお前のことは同情するし理解もするが、関係ない人間を多数巻き込んでくれたことは腹に据えかねるって。」

 「あ……」

 「なのにエリクサーをドロップって、嫌味かよ⁉命がないと戻せないんだよ、もう‼

 せめてもの、って言うより俺からの個人的な罰だな。

 死んだ人間の数だけ殺し続ける。覚悟しろよ、お前。」


 バキバキと拳を鳴らす姿は、キング・シャーマン・ミノタウロス・エンペラーにはほとんど悪鬼に見えただろう。


 「ただ、な。

 さっき妹から連絡もらったけど、上の方でも揉めてるらしいし、な。

 そっちを解決してから徹底的にやるから覚悟しとけ。」


 言い捨てて、青年と従魔達は『移動の翼』で転移していった。


 ダンジョン中ボスである以上逃げられない。

 挑戦者とは戦わなければいけない。

 例えそれが繰り返し惨殺される、ただそれだけの為としても。


 どうせ生き返る。

 それがダンジョン中ボスの特性であり宿命としても……


 以前クロさんは50回で心が折れた。


 でかミノさん、すでに折れそう(泣)

 



 

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