第330話 小さなカウボーイ獅子奮迅

 同じ頃、ショーンは1人守り続けていた。


 丸腰だったショーンは、最初数体のカース・ゴブリンを体術で倒したが、その過程で黒刀(ゴブリンのショーンソード)がドロップした。


 今はそれで戦っている。


 ダンジョン化したラスベガスの、まさにその瞬間にいたショーンは、青より更に初動が早い。


 逃げ惑う人々をかき集め、映画館に避難させた。


 単館上映の映画館は、その出入り口さえ守り切れば、建物も丈夫で窓の無い構造だから避難所として適している。


 ダンジョンが溢れた。

 地上に出現した異常事態ゆえに、モンスターがひっきりなしに襲ってくる。


 今はギリギリしのげているが……


 『まるでモンスターハウスだ。』


 ショーンは空間魔法使いだ。


 映画館にいるのは100名余りで、自分が例えば郊外に移動、そこからパーティー召喚で引っ張れば助けられる。


 ただ、その際生じるだろう数秒のタイムラグが恐ろしかった。


 瞬間飛び込むだろうモンスターに、必ず数名は犠牲になる。


 それでも、さっき宙を舞っていたワイバーンにでも襲われれば、ショーンの力では守り切れない。


 賭けなければならない、その瞬間が近付いていた。


 今のショーンは、モンスターにカース(呪)がついていることは知らない。


 わかるのは、やたらと強い、それだけだ。


 さっき戦った、(カース)ミノタウロスはヤバかった。

 感覚的には、日本の町田ダンジョンで戦った4アームズ・ベア以上。

 魔法攻撃まで飛んでくるし。


 こんな事態を招いた……

 自らを殺してしまいたいとさえ、思い詰めたショーンだが。


 今はそうは思わない。


 人はどうしても生きたいし、自分もやっぱり生きていたい。


 このダンジョン反転に巻き込まれた人々も、やっぱり生きていたかったはずだ。


 今は彼らを守ろうと思う。

 背にしている映画館は驚くほど静かで、必死で息を潜めている。

 生きたいと願っている。


 とにかく彼らを助けよう。

 先のことは後で考えよう。


 ある意味振り切れたショーンだったが、しかし次の瞬間、『絶望の使者』が舞い降りた。


 強い風が巻き起こり、思わず目をつぶった一瞬の隙に。


 「うわ……」


 ショーンの目の前には通常個体よりはるかに大きい、茶色なはずが漆黒の(カース)ワイバーンが舞い降りていた。


 「……」


 言葉がでない。


 圧倒的強者の風格に……


 犠牲は覚悟で『移動』するしかないと思う。


 悔しいけど、決断の時だ。


 しかし、ショーンが飛ぶその前に‼️


 キン‼️と言う清んだ音が響き、太刀筋に沿って切り取り線のように、ワイバーンの首に筋が入る。


 その頭が嘘のように落ちた。


 「え?」


 ダンジョンモンスターの特徴だ。


 離れた頭も、体もその場から消えていく。


 「ショーン‼️」


 消えた向こうに、大きな声で名前を呼んだ、異国の師匠とその従魔達が見えた。

 


 


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