第329話 カウボーイは自らの軽率さを知る(←おっせえわ!)

 否。


 間違った再起動を果たした者がいた。


 「なあ、さっきショーンが戦っているって聞こえたけど‼」


 ラスベガス支部のBチーム、レベル170の男だ。


 「ショーンはレベル88だ‼

 あいつが役に立つのなら、俺達でもいけるんじゃないか⁉」


 レベルが全て、レベルが高ければ『イコール強い』のアメリカらしい発想だ。


 ムカッ腹が立ったのだろう。

 鉄拳制裁を発動しそうなひまわりを、目顔で紺が止めた。


 「なら、行ってくればいい。」


 ひまわりが出したのは『移動の翼』だ。

 それも2枚、往復分だ。


 「太刀打ちできると思うなら、あなたが代表で行ってきて。

 往復分あげるけど、間違って死んでも知らないよ。」


 「ショーンがやれるんだ‼俺に出来ないわけは無いだろう‼」


 はりきって移動した170は、5分もせずに左膝骨折の大怪我を負い、戻ってくる恥さらしだったが。


 「うおーっ‼なんだよ、あれ⁉なんだよ、あの強さは⁉」


 移動した先でカース・ミノタウロスと当たった。

 通常個体より一回り以上大きく、カース(呪)の効果か魔法まで使う。

 速さも、力も桁違い。


 アッという間に叩きのめされ、殺されかかったらしい。


 男は大騒ぎだったが、ひまわりと紺は呆れ過ぎて白っとした表情だったし、さすがにカウボーイ達もわかり出していた。

 共に騒ぐ者もない。


 滑稽なピエロの大怪我は、最初の宣言通り治してやる気もないらしい、放置したままひまわりが言う。


 「私達の母親は、剣道なら道場が開けるレベルの人なの。剣を使った体の動かし方は母親に、体術的な動きは父親や祖父が少しは出来るから2人に。

 基礎があるか、ないかは、レベル差を埋める力になる。」

 「私達はショーン君に会っていませんが、兄さんが教えたなら彼は知っています。ショーン君は、あなた達に伝えようとしませんでしたか?」


 そう言えば……


 日本から帰ったショーンは、このレイドバトルも危険を何度も訴え、支部長に怒鳴られていた。

 ショーンは高レベルカウボーイ達にも何度も話そうとし、その度にからかってまともに聞こうとしなかったのは自分達だ。


 「聞かなかった……」

 「馬鹿にして……」

 「聞こうとしなかった。」


 パラパラ返る答えに、

 「最悪だね。どこまで無知なの?」

 歯に衣着せぬひまわりと、

 「反省して下さい。」

 と、紺。


 言外に、『反省しても戻らない』他人の命の重さがにじんでいる。


 重苦しい沈黙が支配する中、

 「すまん。電話をかけていいか?」

 支部長が言い出した。


 「別に、邪魔は許さないけど、あなた達の行動を縛る気はない。

 泣いて助けてもらえるならそうすればいいし、責任から逃げ出すなら別に追わない。

 どっちにしろ、落ち着いた後は兄貴にボコボコにされるよ、あんた達。」


 ひまわりの煽りに、それでも誰も逃げ出さないのが高レベルカウボーイのプライドか?


 「いや、逃げるつもりはない。報告だ。」


 ここでやっと、カウボーイ協会本部にラスベガスの現状が報告される。


 

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