第328話 霧の中の地獄と、最速でも間に合わない苦しみと

 少年は体の半分を失うような、本当にギリギリ即死を避けただけのほぼ致命傷を受けていたが、今はひまわりのヒールで全快している。


 だからこそ全力で叫び、青の足に巻き付いて止める。


 「ダメだよ‼️兄ちゃん‼️戻っちゃダメだ‼️

 お化けがいるよ‼️

 友達も‼️先生も‼️

 みんな食べられちゃったんだ‼️

 死んじゃうよぉ‼️兄ちゃん‼️」


 顔を真っ赤にしての必死の制止に、その少年が本気で心配してくれているとわかり……


 嬉しいけれど困ってしまった青が、紺に目配せする。


 頷いて、使った魔法は『スリープ』。


 「あ?」


 瞬間で眠りに落ちる体を支え、青が少年を抱き上げる。

 そのまま、あのラスベガスに連れてきてくれた男のもとに歩み寄った。


 「チビ、心配してくれてありがとな。

 兄さん、この子頼むよ。」

 「え?そりゃいいけど……え?……」

 「ああ、眠らせただけだよ。興奮し切っていたから。」

 「ああ……」


 男は少年を受け取って、一瞬迷い、それでも聞いた。


 「なあ、何があったんだ、この子に?」


 それは『希望のないパンドラの箱を開けるような』行為と気付いていたが、知らないふりを『是』としない男に、青も話していいものか悩み……


 事実は事実だ。

 話しても、話さなくても変わらない。

 ならば。


 「俺はこの国の制度はよく知らないからな。

 学校って?

 小中一貫、なのか?」

 「俺が日本の制度を知らないよ。」

 「そりゃそうか。

 今ダンジョンになっている中に、でっかい学校があったんだ。

 そこに。」

 「……」

 「カース・ワイバーンが2頭、突っ込んで暴れまわってたよ。」


 聞いた男も、聞こえていた高レベルカウボーイ達も、最悪の想像にゾッとする。


 今そこにいるレベル200越えの彼らでも、おそらくは対処不能な通常個体の数倍強いカース・ワイバーンが、

 『人間憎し‼』で子供たちを襲ったのだ。


 「俺は『気配感知』で判断するから、悲しいが事実だ。

 生き残ったのはこのチビと、そこにいる3人だけだ。」


 目線で示したのは、年齢がばらばらの3人が、ブルブル震えて座り込んでいる。

 教師なのか?

 若い大人の女性と、10歳前後に見える少女、5、6歳の少年。


 何のつながりも認められない構成が、彼らがただ偶然で生き残ったと告げる。

 ハリウッド映画のように、英雄的に駆け回ったわけじゃない。

 蹂躙され、虐殺される中、ただ順番が遅かった人々。

 偶然離れた場所にいた人々……


 「ワイバーンはやっつけたけど、戻らないものばかりで嫌になるな。」

 「……」

 「最後もう1回だけ行ってくる。

 この人達ばかりじゃなくて、みんな多くを失った人だ。

 力になってやってくれよ。」


 青、白、水まんじゅうのパーティーが、『移動の翼』で結界内に消えた。


 ただ助けに来てくれた外国人の青年が、もしかしたら1番苦しみ、間に合わない責任を感じている事実に……


 少年を受け取った男は、つい苛立ってカウボーイ達を睨む。


 彼らはまだ再起動できていない……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る