第5話 少年は迷い込む

 子供が本気で暴走して動いた場合、逆に大人では捕まえきれないことがある。


 青自身もまだ子供だ。でも、身長は160センチを超え、大人の体形に変わりつつあるから、小さな妹に追いつけない。


 「コンちゃん‼どこ?」

 

 ひまわりは、ミャーミャー声のする方へ、ただ闇雲に駆けていくから。


 「待て、ひま‼落ち着け‼」


 オーロラ号を引っ張って、必死で追いかけながら混乱する。


 なんだ、これ?


 なんだ、この洞穴は?


 頭の中は『???』でいっぱい。


 オーロラ号がガチャガチャ軋み、時折地面の凹凸にあたって跳ね上がる。

 自分のカバンも、妹のランドセルも、カゴから零れ落ちそうに飛び上がった。


 いきなり広くなった以外にも、洞穴にはおかしな部分が多数ある。

 

 もう100メートルは走っている。

 それだけ奥に入り込んだ。


 広過ぎる、それ以前に、一体どうして暗くならない?


 洞穴に潜れば、外の光が届かなくなる。


 視界が確保できないから、探検隊はライトを持つのだ。


 それくらい、知っている。

 なら、どうして?


 走りながら観察するに、この洞穴、壁自体が薄く光っているらしい。


 そんな場所、この地球上のどこにもない。

 テレビだって特集してない。


 なんだ、ここ?


 ずっと日暮れ前くらいの薄暗い、ただ足元は心配ないくらいの明るさが確保されていた。


 頭の中に急に響く。


 「本日未明、東京の代官山に、巨大な洞穴のようなものが発生しました。アメリカやヨーロッパでも確認された、ダンジョンではないかと推察されます。」


 朝テレビキャスターが叫んでいた。


 ダンジョン……

 え?ダンジョン?


 そう言えば、耕輔だって言っていた。


 「それだけじゃないぞ‼全国各地だ‼」って。


 全国各地で、一斉にダンジョンらしき洞穴が見つかっている。


 え?

 じゃあ、まさかここは?


 嫌な汗がドッと流れる。


 他人はそれを冷や汗と言う。


 青が真実に思い当たったその時、前を行くひまわりの足がピタリと止まった。


 洞穴を通路部分と、それがつなぐ部屋に分かれている(まさにダンジョン)。


 ひまわりは目の前の1室を覗く形で固まっていた。


 部屋の中からは、複数の子猫が泣いているような、ミャーミャー言う声。


 「ひま‼この中は危ない‼すぐ外へ‼」


 息せき切って告げた青は、妹が指さす先にいるものを確認し、足から力が抜け膝を付きそうな衝撃を感じた。


 「にぃ、あれ、何?」


 通路から覗き込む、その部屋には二足歩行の豚がいた。

 アニメや漫画でおなじみの、オークだ。

 オークが3頭、ミャーミャーと鳴いている。


 恐竜の色は誰にもわからない。


 オークの鳴き声だって、もちろん誰にもわからないさ。


 って言うか、お前ら、鳴くなら『ブモオォォォ‼』みたいなイメージだろう‼


 青は口に指を当て、必死で妹をなだめながら、その場をゆっくり離脱するのだ。





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 夕方6時前後毎日更新、異世界ファンタジー『帰るまでが遠足ですか?……出だし土下座で始まる異世界迷走……』も連載中です。

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