第2話 少年は爆弾お握りを齧る

 少年は、早朝5時半には起き上がる。


 学校に行くためだ。


 『は?』っと思った人、あなたは本当の田舎を知らない。


 少年の通う学校は、真面目に遠い。

 車で45分。

 しかもアップダウンが激しい山道だ。


 当然スクールバスが出ている。


 学校は小学校と中学校が同じ敷地にあり、なんなら校舎も同じで、全校生徒合わせて30人もいない。

 小学生17人。中学生11人。


 あたり一面の学生を拾うから、この人数なのにバスは3系統。

 これを待てば7時半でいいのだ。


 事実妹はこのバスに乗る。

 今はまだ布団の中でぬくぬくしている。


 家は農家だ。

 今は春キャベツの収穫時期だ。

 小麦の種まき時期でもある。


 ゆえに父母は朝の5時前には家を出る。

 一仕事終えて帰ってくるのは7時くらいで、子供らの朝食を食べさせ送り出せる、筈だった。


 少年が車に弱くなければ。


 スクールバス……と言うか実際はバンだが、何軒かを回って学生を集めるため45分で済むところ、1時間はかかるのだ。


 車に酔う子供にすれば地獄である。


 だから彼は5時半に起き、自分の朝食、弁当を用意し(中学からは弁当持ち)、6時半には家を出る。

 自転車2時間一本勝負だ。


 母のお古、オーロラ号大活躍だ。

 

 これが彼、赤井青(アカイアオ)12歳の日常だ。

 全国的にも珍しい方の中1と言える。


 この、

 『赤だか青だかはっきりせい‼』の名前は、おそらくこの家の伝統だ。


 父親が赤井紫(アカイムラサキ)39歳。

 母親が赤井緑(アカイミドリ)34歳。

 妹が赤井ひまわり(アカイヒマワリ)6歳だ。


 いつからふざけだしたのだろう?


 って言うか、母親は嫁に来たのに、なんで偶然参加してるのか?


 ちなみに祖父は赤井海人(アカイカイト)63歳。

 

 うん、すでにふざけている。


 ともあれ、5時半に起きた青は、一升炊きの炊飯器に満々に炊かれたご飯の、半分を取り出す。

 取り出したさらに半分を、卵3つ使用の卵かけご飯時々お茶漬けにし、昨日の残り物及び自家製沢庵で朝食を平らげる。


 余った分に昨日の残り物(唐揚げとか、焼き魚とか)を突っ込んで、足りないから瓶なめたけとか、沢庵とか、ゆかりとかも突っ込んで、巨大な爆弾握りを作り、弁当完成。


 ラップにくるんだものをそのままカバンに仕舞う雑さで、オーロラ号に向かってゆくと、付けっ放しだったテレビが聞きなれない言葉を言った。


 「本日未明、東京の代官山に、巨大な洞穴のようなものが発生しました。アメリカやヨーロッパでも確認された、ダンジョンではないかと推察されます。」


 「ダンジョン?」


 青はゲームをするし、もちろんダンジョンが何たるかわかっている。

 モンスターがいて、倒すとドロップ品が手に入り、時に宝箱が転がっていて人知を超えたアイテムが手に入る、お馴染みのあれだ。

 たまに宝箱が噛みついてきたりもする(ミミック)。


 とはいえ、これまで現実にそんなものはなく、アメリカだヨーロッパの話だって、せいぜい数日前である。


 信じきれないというか、現実味がない、情報はまだ何も出てきていない話だった。


 「代官山以外にも、町田市、神奈川の東白楽駅付近にも確認されました。近隣の方は近付かないようにお願いします。何があるかわかりません。

 あ、今首相から緊急声明が……」


 大騒ぎしているが、青にとって『代官山』も『町田』も、『東白楽』も知らない場所だ。


 気にはなったが学校に遅れる方が怖い。


 春とはいえまだまだ寒い、朝露の道を、オーロラ号で走り出すのだ。








 (⌒∇⌒)大概渋谷か新宿か池袋なので。ひねくれた場所、オンパレード。

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