第4話


 私たちの両親は、私たちが小学五年生だったときに事故に遭って死んでしまった。


 幸いにも当時はまだ母方の祖父母が健在で、私たちはそこに身を寄せることができたし、突然肉親を亡くした二人の子供に親戚の人たちも良くしてくれて、お陰でこうして大学にも行って就職もできた。

 今では妹と二人で自立した生活ができている。

 だから、私たちは幸運だったのだろう。


「……」


 それでも、私たちが二人きりであるという実感はなくならない。

 大切なものは呆気なく居なくなってしまう。それがどれだけ大切な存在であっても、いや、だからこそ本当に呆気なく、何者かの気まぐれとしか思えないほどに突然。


 そんな事実は私たちの心に深い傷を残した。


 父も母も死んだと知ったときの、あの――これまで私のすべてを支えていた足元がなんにもなくなって、上下も左右も世界もなくなって、自分の存在までもが分からなくなったときの、妹の他にすがるものがない、そして彼女にも私しかいないという――感覚は忘れられるものではない。


 お葬式の日、鈴花はずっと泣いていた。

 身体の中身が全部出てしまうんじゃないか、と思うほどの彼女の嗚咽おえつを側で聞きながら、しかし私は泣かなかった。

 足元も上下も左右も世界もなくしてしまった私たちの、これからの二人きりの生活のことを考えると、呆然としてしまって、とても泣くことができなかったのだ。


 そう、こんな風に、私たちの性質は他の人が思うほど一緒ではないのだ。


 大切な人を突然奪ってしまったり、妹の書いた小説が誰かに認められたり、スズメバチが怖かったり、休日の昼間から飲むお酒がおいしかったり――いいことも悪いことも気まぐれなこの世界を、私たちは戸惑いながら、なんとかバランスを取って生き延びなくてはならないのだから。

 


 

 

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