閑話:その後の黒騎士
そのあと黒騎士がどうなったのか、僕はその後、接触を持たなかったので知らなかった。
これは、ずっと後で、それこそ、僕の冒険が最終局面を迎えた頃に、黒騎士と再会して、本人から聞いた話だ。
彼女は、僕の説教に心を打たれ、真人間として魔王軍で生きて行く事を決意したそうだ。
それぐらい、憤怒の能力による心理矯正は強かったという事だね。
魔王軍に帰った黒騎士は、僕を逃がしたという事で、上司にすごく怒られたそうだ、いつもなら言い訳をする彼女が、素直に非を認めたので、上司は変な顔をしたという。
黒騎士のいた部隊は魔王軍の中でも獣人部隊と呼ばれる、魔族より格下の歩兵部隊だった。彼女はそこの下士官だったんだって。
獣人部隊は質が低くて、乱雑で、陰口とか賄賂とかが横行する、良くある駄目な組織だったらしい。
彼女は、その部隊を変えようと努力した。
自分が正しいと思う事を行い、不正と思う事に抵抗した。
彼女は困難な状況に陥るたびに、ずるをしたい、手抜きをしたい、と、思ったんだけど、そのたびに、あの真っ赤な夕日の下で、怒ってる僕の姿が頭に浮かんで、気持ちが引き締まったらしい。
あんな子供で、自分よりも、はるかに弱い勇者が、あんなに正しく生きているのに、誇り高い人狼の自分が、これぐらいの事で音を上げてどうするのだと、心を奮い立たせて頑張ったらしい。
不正をしていた上司に命を狙われたり、きれい事を言うとねたんだ同僚に罠にはめられそうになったりしたという。
それでも、彼女が正しい事を行おうとしていると、解ってくれる部下がいて、上司の上司も、そういうタイプの人だったらしい。
魔王軍と言っても、全員が同じように腐っているわけではなく、少しは、良く出来て、心正しい魔人の人もいたという。
質の良い人は、質の良い仲間をいつも探しているんだね。
だんだんと、時間がたつたびに、黒騎士の回りには、真面目で誠実な魔物達が集まり、だんだんと集団としての存在が目立ち始めたらしい。
質の良い魔人たちで結束した集団は、よく働き、成果も出していく。
ついに、引退する上司の上司の後を継ぎ、黒騎士は魔王軍の幹部に上り詰めた。
魔王様に、お前はなかなかやるな、と言われた時は、天にも昇る気持ちでしたよ、と、黒騎士は僕に笑ってそう言った。
そして、清々しい気持ちで、僕と黒騎士は刃を交えるのだけど、それは、ずっと後の話だよ。
チャリで来た異世界 ――君よ憤怒の河を渡れ―― 川獺右端 @kawauso
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