高等テクニック

 魔物と戦いトラップを躱しその先で神社に到達する。この特に面白みのない場面を「テンプレ展開満載な物語にする」というミッションを課せられた私達。まずは与えられた〈そうぞー魔法〉というものを試してみようと思う。


「想像した場面を創造できる魔法って言ってたわよね?」


 私がそう聞くと、三人はコクリと頷く。そしてハルちゃんが「それじゃあ、ハル、試したいことがある!」と言った。


「例えば……お菓子の国になあれ!」


:ええやん、可愛い願い事やね!

:関係ないけど、お菓子の国ってすぐ腐りそうだよね。大丈夫なのかな?

:防腐剤大量に使ってるんとちゃう?

:嫌やなー、そんなお菓子の国


「こら、コメント欄のみなさん! 子供の夢を壊しちゃいけないよ!」


:はーい

:せやな、無粋やったわ

:きっとファンタジーな力で守られてるんだね。うんうん


 なんて言っていると、ふわぁっと私たちを取り囲んでいた景色が霧散し……代わりにお菓子の国が出現した!


「「「おお?!」」」


 すっごー! ホントにできちゃったよ。ご都合主義過ぎない?


「やった! おいしそー!! ってあれ? 食べれない?」

「触ることは出来るけど、壊せないね~」

「破壊不能オブジェクトって扱いなんだ」


 なるほどね、あくまで「舞台装置を作る」魔法であって「万物を創造する」って訳じゃないのね。それならご都合主義じゃない……のかな?


「と、ともかく。そういう制限があるのね。それと、想像力が足りないと不十分になったり作画崩壊したりするみたいだよ。ほら」


 私が指さしたのは町の一角。まるでそこだけ色を塗り忘れたかのように、もとの風景が映っていた。それとケーキに乗ってるキャンドルの火が、明らかに他のオブジェクトと被っている部分があるわね。燃え移っちゃう?!


:危なすぎるwww

:本物が出現してたら、今頃大惨事だったよ……


「ほんとだ?! これは良くないね……」

「〈そうぞー魔法〉を使うときはかなり集中してないと駄目そうだね」


 そんな風に〈そうぞー魔法〉の特性を何度か実験し、その結果をもとに、どんな舞台を演じるかの相談をする事に。


「ここからはネタバレになるから、画面の向こうの皆さんは、しばらく別の映像を見ながらお待ちくださーい」


:はーい、待ってまーす

:こら、そんないい方しない!

:気にせずゆっくりしていいからね!

:なんかワイが悪者みたいになった?! そんなつもりじゃなくて……!


 ロボマネージャーに入ってるなんかいい感じの映像を……。え? いい感じの映像を流しおく? ありがとね!




……美少女打ち合わせ中……




 画面が暗転し、琴を弾く音が聞こえた。程なくして琴に加えて篠笛の音など日本の伝統的な楽器を使った音楽が流れ始める。


:お?

:なんか始まりそう?

:始まったか?!

:和風な感じかな

:陰陽師的な?

:忍者かも?


 古風なテイストのBGMに、陰陽師や忍者と言ったコメントが散見される。しかし、その音楽に電子楽器の音が混ざり始め、一気に現代風な音楽に代わる。「お?」「なんやなんや?」と言ったコメントが流れる中、画面の暗転が明けた。


 そこに映っていたのは五重塔……いや、百重の塔が林立する大都市であった。オーバーテクノロジーな平安時代ともいうべきその町は、コメント欄をざわつかせた。


「妖怪の出現から早数百年。その強大な力によって一度は滅びかけた人類は、その知性によって妖怪を退ける術を見出し、今やさらなる発展を遂げるに至った」


 ヒメの声でナレーションが入る。なるほど、ヒメたちはこういう設定を選んだようだ。コメント欄の反応は……?


:おもろそうやん

:全然テンプレじゃないけどな

:てっきりファンタジーにするのかと

:そうか? 割とテンプレな気もするけど

【120TP】


 コメント欄は困惑に満ちていた。確かにテンプレとは相性が悪そうな世界観と言えるだろう。一人、テンプレ判定が緩い人もいるが……まあそれはともかく。

 ファンタジー世界なら「スライムに代わって角の生えた兎が最弱認定」とか「ドラゴンが美少女になる」とか「魔王が実はいい人」みたいなテンプレを盛り込めるのに。

 他にもSFチックにするなら「弱いと思い込んでた主人公が他人の配信に写り込んで大騒ぎに?!」とか「配信上で『この敵はこうやって倒します』とか言ってコメント欄が『出来るか?!』で埋まる」みたいなネタも出来るのに。


 三人が和風を選んだ理由は如何に。



 場面がどこかの森の中へと切り替わる。そこでは墨汁で描かれた狼の群れに追いかけられる女の子の姿が。


 ――グルルルル……


「はぁ、はぁ……。た、助けて……!」


 演じているのはユズ。音符結晶で表現力を底上げしているおかげで、中学生とは思えないレベルの演技力である。


 ――ギャウ!


「きゃあぁぁぁ!」


 恐怖のあまり目を背けるユズ。しかし痛みはいつまでたっても襲ってこない。恐る恐る目を開けると美しい着物を着た一人の女性、演じているのはリン、が立っていた。


「もう大丈夫」


「あなた……は?」


「……。名もなき陰陽師さ」


「え?」


 陰陽師と名乗ったその女性は、ひゅぅという音と共に風に舞う紅葉となって消えてしまう。


:ええやん!

:テンプレっぽくなってきた!

【300TP】

:さて、この謎の陰陽師は将来の味方か敵か……。楽しみですな!

【300TP】


 程なくして別の二人の陰陽師、演じているのはヒメとハル、が女の子の所へやってきた。それと同時に再びヒメの声でナレーションが入る。


「陰陽師、それは妖怪を倒すスペシャリストであり、人類存続の希望でもある。故に陰陽師は皆が憧れる存在であり、ユズもまた、陰陽師という存在に強くあこがれるようになった」


 ――数年後――


 という文字と共に場面が切り替わる。そこではユズが雑魚っぽい魔物と戦っている姿が映される。


「え、えーい! はぁ、はぁ。やっと一体……」


「あの、大丈夫? あまり無理しない方が良いよ?」


「大丈夫、私は、まだ……」


 ふらふらになり、友人ハルに支えられながらもまだ戦おうとするユズ。そんなユズの下に、いかにもエリートっぽい女性ヒメが近づいてきて冷たく言い放った。


「無理よ。もう帰りなさい」


「でも……!」


「分からないの? あなたのせいでハルさんにも迷惑が掛かっているのよ。陰陽道は、才能の無い人間に合わせてのらりくらりと学習する学問じゃないの」


「……」


:悪役令嬢だ!

:実は優しい系の悪役令嬢って感じか?

【1000TP】

:さて、どうなることやら


 悪役の登場で少しTPが集まるも、まだまだ基準値には程遠い。このままじゃ不味いぞ、大丈夫か?



 再び場面が切り替わり、今度は病院になった。早歩きで病院の中を進むユズの心の声が聞こえてきた。


(才能がなくても、私は陰陽師にならないといけないの……! 陰陽師になって、伝説の妖怪を倒して……)


 ユズが病室の扉を開ける。するとベッドに寝ていた女性ハルがうっすらと目を開け、ユズの方を見た。


「あ、お姉ちゃん……。来てくれたんだ……。ゴホゴホ」


(妹の病気を治す薬を手に入れないといけないから……!!)


:おー! ぶっこんできたねー!

【5000TP】

:病気の妹だーーwww

【6000TP】

:言われてみたら、妙に病気の妹って設定多いよね~

【7000TP】



 なるほど、そう来たか。敢えて非テンプレな作品の中に唐突に凄くテンプレな要素を入れ、それを際立たせる。これは高等テクニックと言えよう(?)



 病気の妹を救う、こういう設定が多い理由を私なりに考察してみよう。


 例えば「病気の幼馴染を救う」だとどうなるだろうか?

 この設定を採用すると、必然的に「病気の幼馴染」がヒロインとなってしまう。すると「せっかくのアクションシーンでヒロインを描写出来ない」という問題が起きてしまう。

 ハーレム展開にして、別のヒロインを据える事も出来るが……。ヒロインAが病苦に苛まれている中、主人公はというとヒロインBとイチャイチャダンジョン攻略なんて、流石にどうかという問題が発生する。

 そんな訳で「病気の幼馴染」という設定は使いにくいのだ。


 では「病気の親を救う」なら? これなら上で挙げた問題は発生しなさそうだ。しかしながら、病気の親だと、それはそれで問題が発生する。例えば次のシーンを見てみよう。


「私のことはいいから、お姉ちゃんは自分の事を優先して……。私は大丈夫だから」


「そういう訳には……いかないよ……」


 はい、このシーン。姉妹だから成立するのであって、親子だと意味合いが変わってくるのではなかろうか? 親子だと「私のことはいいから」の重みが大きく変わってしまい、見ていて複雑な気持ちになってしまう。



 そんな訳で、病気になるのは妹なんですよ! それだと都合がいいんですよ!

 この設定都合がいい、だから使いまわされ、それはテンプレとなる。テンプレとはそういう物だと私は思う。



 長々と失礼しました。



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ダンジョンはアイドルのステージよ! 転生者の私はゲーム世界で最強を目指す(←既に最強) 青羽真 @TrueBlueFeather

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