第8話 放課後

 悠たちが降り立ったのは、大神殿ではなく以前悠が案内された豪華な来賓室だった。


「きゃあ!」


 驚きの声を上げたのはメイドだ。ちょうど部屋を掃除中だったらしい。


 城の中は再び現れた異世界の聖女を歓迎しようとバタバタと慌ただしくなった。悠は急にいなくなったことを何度も頭を下げて詫びた。その度に相手はひどく恐縮したのだ。救国の聖女があまりにも腰が低く、仮にもと冠する肩書の持ち主の行動とは思えなかったのだ。


「聖女様ー!!!」


 大神殿から城まですっ飛んできたローレルはすでに涙と鼻水を流していた。


「よかった……グズッ……我々を厭まれたのかと……配慮が足らず申し訳ありませんでした……」

「そんな。親切にしてくれたじゃないですか! なのに挨拶もせずに帰って……本当にごめんなさい」


 ローレルは悠が元の世界に戻った理由を聞かされていたようだが、それでも自分が、自分達が悪かったではないかと気を病んでいた。


「あの、それで、その、王子様は?」


 少し遠慮がちに聞く。ギルベルトが悠を元の世界に返して何か叱責されたり、罰を与えられてはいないかと心配だったし、彼に会いたいと思う自分の中の気恥ずかしさもあったからだ。

 もちろん、悠はこの世界で謝る度に自分が帰りたいと強く願ったことは伝えていた。その度に相手は理解を示してくれた。


「ああそうだ! すぐにいらしてください!」


 ハッと思い出したように悠の手を取って廊下へと出た。


「王子様!?」


 豪華な扉をノックもせず中に入ると、苦しそうに息をするギルベルトがベッドの上で横たわっていた。


「王子! ハルカ様がお戻りになられました……!」

「……ハルカ?」


 薄っすら開ける目は生気がない。だがほんの少しだけ嬉しそうに笑ったように見えた。


「なんだ。せっかく戻してやったのに……」

「もう! そんな軽口叩いて……!」


 悠には彼が瘴気にやられていることはすぐにわかった。ギルベルトは救国の聖女を元の世界に帰した代わりのように、最前線で多くの魔物の討伐をおこなったのだ。他の人より圧倒的に瘴気耐性のあるギルベルトでも受け止められないほどの量を短期間で吸い続けたせいか、今にも命を落としかねない状況にまで陥ってしまった。


「すぐ治すから……」


 悠は優しく伸ばされたギルベルトの手を握り祈った。


(さっさとまた偉そうに振舞ってよ王子様……! 皆心配してるじゃん!)


 優しい光が部屋中を包んだ。


「お見事」


 横たわったままのギルベルトは優しい微笑みで悠を眺めた。


「言い方!」


 照れ隠しをするように、悠はニカっと笑って見せた。


◇◇◇◇◇


 悠はそれから毎日、放課後は旧校舎へと通った。皆が部活動で青春している時間、悠は異世界を救っているのだ。


(放課後異世界クラブって感じかな? 部員は1人だけど)


 鏡の前でジローが待っている。


 そうして今日も、異世界の扉をくぐって行った。


 

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放課後異世界クラブ 桃月とと @momomoonmomo

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