第4話 ステータス
「ところで、バーニー。招かれ人とか、案内人ってなぁに?」
軽い挨拶を終えてから、私は会話の途中で気になったことを尋ねることにした。ここまできて、バーニーが私に危害を加えようという存在ではないだろうと思ったのだ。
尋ねられたバーニーは、小さなしっぽをぴょこんとさせてから、鼻をひくつかせて答える。
「ああ、ミウはここに来るのは初めてなんだね。じゃあ、説明しないと」
そう言って、腰に手を添える。
「ここは、魔法の国ファリス。そして、一部の道具でチキュウという世界と繋がっている……とは言っても、招かれる人は限られているんだけど。そうやってチキュウからファリスに招かれた人を、『招かれ人』と言うんだ」
バーニーがそう言いながら私が手に持っている鏡を指さした。これがその一部の道具の一つだというのだろう。
私はバーニーの説明を頷きながら聞いた。
「それから、『案内人』っていうのはボクみたいな存在。『招かれ人』がこの世界ファリスで迷わないようにする、いわゆるガイドとかサポーターみたいな存在かな?」
言い終えると、得意げにバーニーが自分の髭の片方をピン、と摘まんで見せた。
「じゃあ、私が『招かれ人』で、バーニーはその私の『案内人』ってこと?」
突然迷い込んだ世界。案内人とやらがいるのなら心強い。私は確かめるようにバーニーに向かって首を傾げた。
「そう! ボクはサクラの案内人でもあったからね。彼女の鏡でやってきたサクラにそっくりなミウも、ボクが案内するよ! 安心して!」
ぴょんとひと跳ねしてから、バーニーは任せろと言わんばかりに胸を叩いて見せる。
その仕草のかわいらしさと安心したのとで、私はほっとして笑顔になる。
「あ、やっと笑ったね」
バーニーが笑顔で私の顔を覗き込んできた。
「不安だったんだろう? 突然こんなところに迷い込んで。サクラも最初そうだったもん。よく分かるよ」
そう言って、私の頭を小さな手で撫でてくれた。
私はそんなバーニーの手が動くのを、上目使いに眺めてから視線を彼の瞳に移す。
「ねえ、バーニー。おばあちゃ……サクラがこの世界に来ていたってことは、元の世界に帰ることも可能ってこと?」
だっておばあちゃんは、おばあちゃんとしてあの田舎の家で私といたのだ。だとすると、帰ってきておばあちゃんになったのだと考えるのが普通だろう。
そう思って尋ねると、当たりだったようで、バーニーがその首を縦に動かした。
「うん。正解。サクラと同じなら、君はその鏡を使ってこちらの世界とあちらの世界を行き来することが出来るはずだよ!」
その言葉に、ぱぁっと胸が明るくなる気がした。
だったら、向こうの家族に心配かけちゃうとか、気にしないでこちらの世界にもいられるかもしれない。
それから私は気になっていたのだ。
前にバーニーが口にしていた『魔法の国』という言葉が。
私はうずうずする、はやる気持ちを抑えながらバーニーに尋ねた。
「ねえねえ、バーニー。」
「なんだい? ミウ」
「さっき、ここのことを『魔法の国』って言っていたわよね?」
「うん、言ったね」
バーニーがぴょこんと耳をさせながら首を縦に振る。
「じゃあ、私にもなにか出来るのかしら?」
期待に胸を躍らせて尋ねる。
「そりゃあもちろん! 招かれ人ならなおさらさ!」
その言葉に、私の目が丸くなる。もちろん期待でだ。
「ミウ、こうやって手をかざしてみて」
バーニーが私が座っている横に並んで、空に右手をかざすので、見様見真似で同じように手をかざす。
「同じように言うんだよ」
バーニーの言葉に、私はうん、と頷く。
「「ステータス・オープン!」」
すると、宙に浮いたグラフィックのようなものが展開されて、文字が表示される。
「えっ!」
それを見て私は再び目を丸くする。今度は驚きでだ。
【ミウ】
属性:招かれ人
職業:魔女
スキル:火魔法(Lv1)、水魔法(Lv1)、風魔法(Lv1)、土魔法(Lv1)
錬金術(Lv1)、鑑定(Lv1)、翻訳(Lv1)
「なにこれっ!」
『魔法の国』とは聞かされていたものの、これじゃあまるきり本の中の話のようだ。それが現実になって、私は目をぱちぱちして二度見する。
「見えたみたいだね? それはステータス魔法。基本魔法のようなものかな。この世界では誰でも自分の能力を見ることができるんだ」
「自分の能力……?」
そう呟いて、ちら、と私の前に展開されたものと並んでいるものを見る。
【バーニー】
属性:案内人
職業:魔法使い
スキル:火魔法(Lv10)、風魔法(Lv8)、水魔法(Lv5)
「ねえ、バーニーのも見えるんだけど。バーニーってめちゃくちゃ強くない?」
私の目には、バーニーのステータスも見えたのだった。
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