動き始めた時間
優佳は手紙を手にした。
宛名を見ると「優佳へ」と書かれている。
優佳は、急いで中身を確認する。
手紙には、生前の母親からのメッセージが書かれていた。
優佳へ、
あなたがこれを見ているということは、私は既にこの世を去っていることでしょう。
突然の事で戸惑っていると思いますが、どうか受け入れてください。
あなたの成長を見届けることができずに、この世を去ることになってしまいました。
私はいつも、永遠にあなたと一緒にいたいと願っていました。だけど、人生には別れがつきものなのです。
私がどこに行ったかと聞くあなたに、父さんが虹の向こう側に行ったと答えたかもしれません。虹の向こう側は、私たちがいつも見ている虹の彼方で、愛や思い出が輝き続ける場所です。そこから私はあなたを見守っています。
優佳、私が居なくなったことで寂しくなったり、辛い思いをすることもあるかもしれません。
でも、私はいつもあなたの心の中にいます。あなたの成長や喜び、悲しみを一緒に分かち合いたかった。
でも、私の存在はあなたの心に永遠に続きます。
大切なことは、自分自身を信じ、夢を追い続けることです。自分の心に素直になり、自分の声に耳を傾けてください。困難や失敗があっても、それは成長の機会です。
どんな時も自分を信じることを忘れないでください。
優佳、いつまでも大好きだよ。
ずっと、見守っているからね。
母より。
読み終えた優佳は、しばらく呆然としていたが、瞳に大粒の涙を流した。
その雫は頬を伝い、膝の上に落ちていった。
嗚咽混じりの声が漏れる。
どうしていいのか分からず、ただ泣き続けた。
どれくらい時間が経っただろうか。
空が明るくなってきた頃、優佳は立ち上がった。
掃き出し窓から空を見た。
そこには、大きな虹が架かっている。
雨上がりの青空が澄み渡っており、太陽の光が降り注ぐ。
七色の光に包まれながら、優佳は微笑んだ。
「お母さん、ありがとう。私も、お母さんのこと、ずっと忘れないよ」
優佳は、胸を張って言った。
もっと頑張って生きることを誓う。
高校に入学した優佳は美術部に入部した。
優佳は、キャンバスに向かって筆を動かす。
個人的な趣味として絵は今まで描いていたが、部活動では本格的に取り組むことにしたのだ。
優佳の中で、絵に対する想いが動き始めた時だ。
そこで優佳は、同じように絵に情熱を注ぐ仲間たちと交流し、技術を磨いていく中で成長する。母親の手紙が彼女に与えた勇気と魂の声が、彼女の絵に息づき、より深みのある作品になっていく。
ある日、美術部の先生から特別な依頼が舞い込んだ。
地元の美術展に参加し、自身の作品を展示して欲しいとのことだった。
顧問である美術教師は、優佳の作品を高く評価しており、ぜひ参加して欲しいと熱望したのだ。
優佳は戸惑いながらも、承諾する。
数日後、学校の敷地内にある桜の木の下で優佳は佇んでいた。
春になると、満開の花々が咲き誇る美しい木だ。
優佳は、その光景を見ながら絵を描いていた。
絵には桜が描かれている。
だが、どこか違和感があった。
何かが違う気がしたが、それが何なのか分からない。
優佳は首を傾げるが、答えが出ない。
その時、優佳は気づいた。
母親が描いた絵は、こんな感じではなかったはずだ。
そう思った瞬間、優佳は思い出す。
母親の絵には、もっと遠近感があった。
そのことに気づいた優佳は、筆を手に取り修正を加えていく。
遠く。
そして、さらに遠く。
その先に見える景色まで描くように筆を動かしていく。
見たものを描くのではなく、自分が想像したものを描き上げる。
絵画は、作者の感情、みる人の感情が入り交じり糸がまじりあい紡がれひとつの布となるような個人的な情念にまみれたものになっていく。
やがて、完成した作品は、見る者を魅了するほどの出来栄えだった。
優佳は絵を描き直し、虹を架けることにした。
空の向こう。
遥か彼方へと続く虹を。
母親の想いを胸に抱き、新たな一歩を踏み出すために。
優佳の絵は、多くの人に感動を与え、評価された。
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