マイク=シューウェル アメリカ空軍戦闘機パイロット(当時) の証言

 戦車、爆撃機と出して倒せなかったからといって、まさか隣国の戦闘機に泣きついてくるとは驚いたものだよ。

 でもな、アメリカ政府としてもカナダに出た正体不明の生物について情報が欲しかったから、すぐに俺たちを出撃させてその対価に生物の死骸をもらおうとしていたんだろうと思うぜ。

 俺が乗る機体はF-2A。超低空で突撃して敵の防空網をぶっ潰す空対地ミサイルを搭載した機体だ。

 カナダ政府からの正式な要請と攻撃許可を得て、俺たちは編隊を組んでトロントに飛び立った。

 爆撃機の空爆にも耐えたと聞いていたが、それでも俺たちはまだ楽観視していたんだ。カナダの人たちには悪いけど、俺たちアメリカのような世界最強の軍隊じゃないから倒せなかった。そんな風に思ってた。

 やがてトロントが見えてきて、それで俺は初めてホロゥを見た。

 今でも同じ事を思うが、不気味な姿だったよ。

 血だらけのカマキリが死んだ人間をさらに細かく切り刻んでいたんだからな。怒りすらも覚えた。

 俺たちを舐めるなと、奴らがまとまって歩いているど真ん中にミサイルを撃ち込んだんだ。

 続く機体も一斉に爆撃を始めて、ホロゥを木っ端微塵に吹き飛ばした。

 そう、思っていたんだが、爆炎の中から奴らは平然とした様子で姿を見せやがったんだ。もう唖然としたな。

 で、前方への注意が疎かになっていた。

 最初に墜とされたのは隊長機だったよ。一瞬だった。

 レーダーが警告を発した刹那の後に、巨大な鎌が隊長機を真っ二つに切り裂いたんだ。コックピットも真っ二つにされていて、俺が見た赤い液体が見間違いじゃなければ、あれが隊長の最期の姿だよ。

 へし折られたタワーの影から出てきたのが、結構デカいカマキリだった。

 中型で大きさは多分八メートルくらいか? そいつがタワーに登って飛翔して隊長機を撃墜したんだ。

 後の飛行能力を有したホロゥと違ってそれほど長い時間は飛べなかったが、それでも戦闘機を撃墜できるなんて充分な脅威だ。そもそもあいつらはなんであの体で空を飛べるんだ? 航空力学って概念が存在しないのかよ。※1

 隊長機撃墜の報告と爆撃の効果がない旨を報告したら、基地からすぐに退却しろと命令が出て、俺は初めて上司に感謝したね。

 とにかく死にたくはなかったから、全速力で逃げ出した。

 だが、運悪く最後尾の一機の尾翼に中型ホロゥの鎌が突き刺さり、放り捨てられた機体が俺の機体を掠めて斜め前を飛んでいた機体に直撃して爆発した。

 仲間が炎の塊になって墜ちていく様子を見ながら、俺は神に祈っていたよ。

 神様、どうか罪深き俺たちに慈悲をお与えくださいって具合にな。※2


※1・ホロゥの飛行原理についてはまったくの未知の領域である。航空力学上飛翔不可能なはずの巨体がどうやって飛翔しているかは研究中だ。


※2・トロントに出現したホロゥは、一定時間経過で自然に消失していく活動限界と呼ばれる現象により出現から三時間後に全個体の撤退が確認された。しかし、この一件での死傷者数は、推定で八千六百人とされている。


(中央議会検閲済み)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

学園都市の戦乙女~終末世界の黙示録~ 黒百合咲夜 @mk1016

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ