リサ=メンシーネ カナダ空軍爆撃機パイロット(当時) の証言

 意外ね。私の話を聞きたい人はこれまでも多くいたんだけど、大抵が私が女だからか驚いた表情を見せるのに。


――命をかけて戦ってくれているワルキューレたちも、あなたよりも小さな女性ですから。


 確かに、そうよね。今や私たちはホロゥとの最前線に女の子を送り込むほどに追い詰められている。

 さて、と。じゃあ早速話をしていきましょうか。

 でもね。わざわざ東京からこんな所まで危険を冒して来てもらって申し訳ないんだけど、先に言うと私はあの時トロントではホロゥを見てはいないの。それでもいい?


(彼女の問いかけに、私はゆっくりと頷いた)


 そっか。じゃあ、話すね。

 あの日はね、もうすぐ退勤時間だー、久々にバーでも行こうかなーって具合にくつろいでいたの。

 そんな時に、基地内のサイレンが鳴って私たちに出撃が命じられた。

 普通に考えておかしいでしょ。

 スクランブル発進があるかもしれないというのは空軍なら覚悟してる。でも、そういうのは最初に戦闘機部隊に出動が命じられるの。

 でも、あの時は真っ先に爆撃機の発進が命じられた。

 戦争でも始めるつもりなのかと、首相は頭でも狂ったのかと本気で心配したわ。

 でも、軍人である以上は上からの命令には従わないといけないから、戸惑いながら爆撃機に乗り込んだの。

 で、整備の人たちが爆装を終わる頃に指示された攻撃目標を聞いて、さらに頭が混乱したわ。

 トロントよ? 自国の大都市に爆弾を、それもアメリカから輸入した当時高性能の地中貫通型爆弾を投下しろという命令だもの。

 質問は許されず、そのまま滑走路に引っ張って行かれて即発進。多分、上層部も迷っていたから、私たちがごねる前に爆撃したかったんでしょうね。

 で、移動中にトロントで何が起きているのかが断片的に伝えられて、それでさらに混乱したわよ。

 トロントで正体不明の生物が暴れている。警官による鎮圧に失敗した。

 ここまでなら、まだギリギリどうにか頑張れば納得できる。

 でも、その後に続いた情報が意味不明なものだった。

 陸軍の戦車中隊が攻撃するも、撃破には至らず。

 戦車の砲撃に耐える生物とか正気じゃないわ。絶対に狂ってる。

 あなた、確か情報部の所属よね? 人体に榴弾が直撃するとどうなるか、シリコンによる実験映像があるんだけど、見たことある?


――はい。文字通りの粉々になりますよね。


 そうよ。出現した生物は人間サイズだっていうから、それがあの砲撃を耐え抜いたということになる。

 そしてさらに、送り込んだ戦車中隊は二両を残して全滅したから遠慮なく爆撃して奴らを殺せときたものだから、戦車を破壊できる人間サイズの生物とかもう訳が分からないわよ。だから、深くは考えなかった。

 そのおかげか、当時は逃げ遅れた市民の頭上に爆弾を投下するというとんでもない愚行に気づかず、任務を遂行できたのだけど。

 で、命令通りに爆弾を投下した。

 CNタワーもロイヤル・オンタリオ博物館もハイパークも何もかも破壊して、焼き尽くした。美しいトロントの崩壊と引き換えに、ホロゥを殺すことができるはずだった。

 でもね、分かると思うけどこれも失敗に終わった。

 帰投中に上層部と話していると、通信機の向こう側が急に慌ただしくなったの。何が起きたか問い合わせたら、無言で通信を切られちゃった。

 それで基地に帰って、そして爆撃でもホロゥを殺すことはできなかったと知って、私たちは頭を抱えたわ。

 空爆に耐える生物。ワルキューレが存在しないのなら、あなたはどうやったら倒せると考えるのかしら?


(中央議会検閲済み)

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