マイケル=ハウザー トロント警察巡査(当時) の証言

 あの日の惨状は、なるべく思い出したくねぇな。俺たちがいかに無力かって叩き込まれた出来事だからよ。

 市民から訳の分からない通報が相次いで、司令室の連中も呆れていただろうさ。俺も呆れていた。

 町中で勝手に映画撮影をしている、なんていうもんだから、そりゃあ呆れるわ。

 映画の撮影なんて聞いてない。どこのバカだ。とりあえず映画監督を見つけて一発ぶん殴ってやろう。

 そんな風に思ってた。

 で、現場に到着する直前になって、パトカーに血だらけのおっさんが勢いよく突っ込んできたんだ。

 麻薬常用者かと思って手錠を片手にパトカーを降りたんだよ。

 そしたら、そのおっさんが俺の胸ぐらを掴んで「遅いんだよクソポリ公! さっさとあいつらを撃ち殺せ!」って叫んで逃げていったんだ。

 こりゃあただごとじゃないと思って、相棒のジョンと一緒におっさんが逃げてきた方に向かったんだ。

 そしたらそこは酷い有様だったよ。

 バラバラになった人体がそこら辺に散らばってて、血で真っ赤に染まったカマキリのバケモンが気色悪い声で鳴いてたんだからな。

 無線では、他も同じような状況だったらしい。

 ヤバいと思って、動物管理局が出てくるよりも先に俺もジョンも拳銃でカマキリを撃ったんだ。

 あの当時は人に危害を加える動物でも殺したら保護団体がギャーギャー騒ぐイカれた時代だったが、そんな悠長なこと考えている場合じゃなかったからな。

 だが、結論を言えば何の意味も無かった。

 分かるだろう? ホロゥのあのクソッタレな防御能力のせいだ。

 ホロゥとの戦いが始まってもう何十年と経つが、いまだに人類の兵器では中型までのホロゥしかぶっ殺すことができない。熱核兵器なら大型以上も殺せるが、そんなアホみたいなものを使うなんて正気の沙汰じゃねぇから、ホロゥが出たらいっつもワルキューレのお嬢ちゃんたちにおんぶに抱っこだ。いい大人が笑わせるぜ。

 今でそれだぜ? 当時の拳銃で何ができるんだよ。

 でもな、当時は拳銃というか銃火器はめちゃくちゃ強い認識だったんだよ。

 弾は結構いるが、あの熊ですら撃ち殺せるんだ。人と同じサイズのカマキリなんて、装填している弾数で殺せると思ってた。

 だが、奴らの体は銃弾を弾きやがったんだ。

 あのカマキリ共が一斉に俺たちを見て、俺もジョンも怖くなって必死に撃ち続けた。弾が切れてもリロードすることを忘れて引き金を引き続けた。

 で、ついにはカマキリがジョンの右腕を切り飛ばして、そこでようやく俺は我に返ったんだ。

 カマキリに取り囲まれるジョンに背を向けて、俺は急いでパトカーに乗り込んでその場から逃げ出した。

 あの時のジョンの悲鳴と助けを求める声は、今でも静かな場所で永遠に聞こえてくるんだよな……。


(中央議会検閲済み)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る