第7話
人の腕が足に当たり、輝元は思案する。
一体、どうして腕が……!?
戦には、当然毛利家の一人として、当主として戦に出た。
その時、討ち取った者が化けて出たのか……!?
輝元はいくつかの戦を振り返る。
父が亡くなり大将として出陣した戦、毛利家存続のために出た戦……。
たくさんの戦の中で、確実に命を落としていった兵。
それらの怨念ゆえのものか……。
ひんやりと冷たい汗も背を伝っていた。
灯りを頼りに元を辿ってみる。
しかし、その手のもとは、意外なところにある。
そう、布団の中である。
「お主か」
輝元は苦笑いするほかない。
それは、秀秋の腕だった。
寝相が悪いようで、布団から腕がはみ出、輝元の腕に当たったらしい。
「戦が関係ないのなら、こういったのが一番なんじゃがのう」
輝元は笑いたくなる気持ちを抑えた。
大声で笑って、秀秋を起こすことを申し訳なく思ったからである。
明日には、出陣も控えている。
輝元は部屋で体をゆっくりと休めた。
翌朝。
輝元は朝早く起床する。
出陣するべく、戦支度を始める。
「輝元様、本当に行ってしまわれるのですか?」
妻である南の大方が輝元へと声をかける。
「ああ、行ってまいる」
「お帰りをお待ちしております……」
輝元は頷く。
しかし、出陣しようとした矢先のことである。
「輝元様、書状にございまする!」
飛脚が飛び込んできた。
「では、この場にて失礼」
輝元は手紙を開封する。
それは、石田三成からであった。
家康が留守となった大阪城に入場してほしい、という要請である。
「行き先が変わったのう……。しかし、伏見城を攻め入るのは……」
「私が参ります、義父上」
その声に輝元は振り向く。
そこにいたのは、秀元と秀元に首根っこをつかまれていた秀秋である。
その後ろに、慌てた様子の平蔵がついている。
明らかに、少し平蔵がおびえている。
「では、秀元。首尾よく頼む」
「はっ!」
「秀秋、秀元の補佐を頼むぞ。平蔵、おぬしもしかと秀秋を支えてやってほしい」
「か、かしこまりました、殿」
輝元は頷く。
秀元が大将として伏見城へと出陣していく。
秀秋もきっと、勇戦してくれるはずだ。
輝元はそう思いながら見送った。
出陣していく毛利軍は、大河のように長い行列となった。
いったい、どれだけの人間が帰ってこられるのか……。
輝元はただただ、無言でその背を眺めるほかない。
そして、自身は兵を率い、留守となった大阪城へと移動を始めることとした。
大きな戦火は、もうすぐそこまで迫っている。
ただ、家臣たちの無事を願いながら、輝元は馬にまたがった。
泡沫の夢戦※不定期更新※ 金森 怜香 @asutai1119
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