第6話

平蔵は輝元の案内を受け、風呂場に向かった。

もっとも、この時代の風呂場と言っても軽く湯あみをするための風呂である。


「しかし、本当によろしかったのですか?」

「何がじゃ?」

輝元は意外な言葉に目を丸くする。

「湯上りの服までお貸しいただいてしまって……」

「あのびしょ濡れの服であれば、恐らく風邪を引くぞ」

輝元は苦笑いで言う。


「ありがたきお心遣いにございます!」

「なあ、お主」

「は、はい……」

「我ら毛利家の家訓を知っておるか?」

「……いえ」

平蔵は申し訳なさそうに言う。

大元を辿って行けば、毛利家の家臣だというのに……。


輝元はその様子に気が付いた。

「ああ、よいよい。知らなくとも無理はないんじゃ」

輝元はそう言って平蔵を慰めた。


「我ら毛利家は、「百万一心」と申してな。皆が心を一つにし、一致団結することで何事もなしえる、という意味じゃ」

「「百万一心」、でございまするか……」

「ああ、そうじゃ。お主もその皆の一人じゃ」

輝元の声に、平蔵は思わず胸が熱くなる。


「今宵はゆっくり休むんじゃぞ」

「はい、輝元様! 失礼いたします」

平蔵は用意された兵舎に戻っていく。


「……面白い男じゃ」

輝元様は笑顔で平蔵を見送っている。

そして、屋敷へと招いた秀秋の様子を見ていた。


秀秋は酔っぱらっていびきをかいて眠っている。

「こちらはしようのない奴じゃ」

秀元は呆れたように乱暴に布団を投げつけようとしている。

「待て待て!」

輝元はさすがに秀元を止めた。

「さすがに布団を投げつけるのはやめてやれ」

「ダメですか……」

秀元は残念そうに言う。

「ああ、こればかりはやめてやれ」

輝元は苦笑いして許可しなかった。


秀元は代わりと言わんばかりに、軽く枕を投げつけた。

その枕は、秀秋の腕に当たった。

「いてっ……グー……」

一瞬秀秋は小さく悲鳴を上げたが、すぐ眠っていた。


「仕方ない奴ですね……」

「まあ、そうじゃな」

輝元は秀元の言葉を苦笑いしながら同意する。


「秀元、お主もそろそろ休んでおくようにの」

「はい……。では、お先に休ませていただきます」

「ゆっくり休んでおくんじゃぞ」

輝元は秀元を気遣って言葉をかけた。

秀元は輝元の言葉に会釈し、奥へと下がっていった。


「さてと、ワシもそろそろ休むかの……」

輝元は小さく伸びをする。

その直後である。


足元に、妙な感触が走る。

「な、なんじゃ……!?」

輝元は急いで灯りを付ける。


そこにあったのは、明らかに人の腕であった……。

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