第3話 B軍集団

 第一段作戦にて、河を越えた俺達の軍隊は、B軍集団、A軍集団の2つに分かれた。

 俺達『ろくでなし分隊』は、B軍集団として、当時のコミュニストの頭の名前を冠する都市へと向かい。

 A軍集団の奴らは、コーカサスに向かい進軍をし、的の心臓『バクー油田』を抑えに向かって行った。


 俺達は、A軍集団から合流した装甲部隊と共に、順調に進んでいった。

 そして、このまま戦いは、特に目立ったことはなく終わると思っていた。


 確か、8月21日。俺達は、ドン川を渡り。

 遂に、奴らの心臓部となる工業都市『スターリングラード』に到達した。


 数日の後、スターリングラードには、自軍の爆撃機が到達し、絨毯爆撃が。

 分かりづらいな。・・・爆撃機が、無差別に絨毯のように爆弾を投下し続け、砲が弾を放出し続けた。

 それは、圧倒的で全てを破壊したのが、連日連夜続いた轟音により確認できた。


「これは、大分スゲーな」

 シュナイダーが、数日前から続く、砲爆撃を見ながら飽きずにそう呟く。

「俺達は要らなさそうだな、こんな様子だと」

 シュミッドが、飛んでいる爆撃機を見ながら呟く。


「・・・そんな事を言ってないで、準備をしろ!」

 緊張を感じさせるウェストフースの声が小さく響いた。

「そっ、そうですよ!分隊長の言う通り、準備をしましょう!」

 震えるウェバーの声が聞こえ、

「落ち着け、そんな調子だと死ぬぞ」

 シューネルトが、二人を落ち着かせるように、言った。


「メイヤーお前は、大丈夫か?」

 俺は、大きく鼓動を続ける心臓を確かに感じながら、先程から銃に抱きつくようにして、黙っているメイヤーに問いかける。


「うっ、うん。大丈夫だ。本当さ!」

 彼は、心配を感じざる終えない声でそう返答を返してきた。

「本当に大丈夫なのか?お前」

 俺がこう問いかける。


「本当に、本当さ。今に見てろよ。分隊長含め、皆が”あっ”と驚く戦果を出してやるからさ。国で待ってるカミさんのためにもさ」

 彼は、震える唇を必死に動かし、言い訳をするかのようにそう語った。

 俺が、彼に声を掛けようとしたところで、

「貴様ら!もうすぐ時間だ。じきに突撃する。最後の確認をしろ」

 ウェストフースの震えを隠した声が聞こえてきた。


「俺は確認をするからさ。一端、お前もやれよな」

 メイヤーは、俺に対してそう言うと、少しだけ、移動していった。


 心配ではあるのだが、拒絶されているのに付いていくのはどうかと思った俺は、大人しくライフル銃に弾が入っているかを確認をし、その他のことも確認をしっかりと、何度も行った。


「貴様ら、準備は出来たか?我らは、これより砲爆撃と共に、総攻撃を仕掛ける。停滞したスターリングラードを必ず奪取するのだ」

 こう声を上げてから、

「必ずだ。必ず全員で生きて帰るぞ」

 と小さく、声を漏らした。


 突撃が成功したかどうか。

 どちらかと問いかけられると、失敗だった。

 俺は、それ以外の言葉を言うことは出来ない。


 俺達は、スターリングラードの中に突撃した。

 物陰に隠れながら、ゆっくりと進んでいった。


 街の光景は、もはや街と言える物ではなくなっていた。

 そこら中に元々、建物だったであろう瓦礫が散らばり、辺りを見渡せば、必ず視界には、炎と煙が入る。

 それは、正に地獄であった。

 ドイツ語の叫び声、怒号。聞いたことのない叫び声、怒号は街中に、いやに大きく木霊し、身体中を恐怖が満たしていくのが分った。


「頭下げろ、撃ち殺されるぞ」

 茫然自失としていると、そう怒鳴る声と共に、頭を押さえつけられた。

「・・すいません。シューネルト軍曹」

 正気を取り戻した俺が、頭を下げながら謝る。


 そこらの瓦礫には、敵軍赤軍が、まるで鼠のように隠れている。


 この戦いで俺は、初めて人間を撃ち殺した。

 怒鳴られて以降、しっかりと辺りを警戒しながら、俺は、進軍していった。

 そして、もはや建物とは言えないような、屋根が崩れ落ち、殆ど壁も崩れ落ちていた瓦礫に、突撃した。

 そこに、ほぼ同時に赤軍兵士の一人が侵入した。


 後ろから近づいてくる、仲間達は、

「撃て!」「ミュラー!」

 等々を叫んだ。


 嫌に時間が、長く感じた。

 俺はこの瞬間を今も克明に、つい数刻前にあったかの様に明瞭に思い出すことができる。


 赤軍兵士は、数秒間、硬直した後、怒ったような顔を見せ、手に持っていた機関短銃を構えようとした。


 まずい。

 俺の頭の中は、その言葉に支配されたね。

 それで、全力で銃を構えて、まともに狙わずに発砲をした。



『パン』『タタタ』

 二種類の銃声が響き、床には、血溜りが出来上がった。

 赤軍兵士の腹部に弾が当たったのだ。

 この時点で、俺が赤軍兵士の死を確定させてしまった。

 俺が殺してしまったんだ。


「ミュラー。大丈夫か!」

 後ろから、駆け寄ってきた仲間達は、そう問いかけながら、俺の前に出た。


「だっ、大丈夫だ」

 漠然とした意識の中で俺は、呟くように返事をし、

「ぐぅ゛」

 低い唸り声を上げ、仲間達の間を縫うようにして、俺に鋭い殺意を向ける男を見つめた。


「このクソ野郎」

 シュミッドがそう声を上げながら、男を銃床で頭を殴りつけた。

 その後も、殴る音は響き。男は絶命した。


 絶命をするまでの間、崩れかけた家は、男の殺意の籠もった視線と、殴りつける打撲音。それと、人の正気を崩すような鮮血の臭いが支配しているように思えた。

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