第2話
そう言えば地上の国に来て驚いたのが、「迷子の音」が無いってこと。
地底の国はとても広い、だけどずっと向こうには「壁」があるって教わるわ。とはいえみんながみんな土の壁を見たことがある訳ではないの、そう教わるだけ。本物の土の壁を見たかったら何日間もかけて旅に出ないと見られない、立派な観光スポットよ。
地底の国で楽器を奏でるとするでしょ、そうするとほとんどの音はきちんと消える。それは音が最初から遠くの壁を感じて遠慮するから。でも時々何かの拍子で壁にぶつかる音がある。するとその音は反射してまたどこかにぶつかり、またどこかに飛んでいってを繰り返して、いつのまにか地底を漂う音になる。
グランドを走っていて突然風と一緒にラの音が聞こえたり、スーパーの自動ドアが開いた瞬間に「運命」のあのフレーズが聞こえたり。
そんな時はすかさず両手でパチンと叩いて迷子の音楽を消してあげるのがマナーよ。こっちの国でみんなが蚊を叩くのを見て、最初何の音を叩いてるのかと思ったわ。
地上の音は全然遠慮してないわ、空気を全部使おうとしてる。
地底の国にいた時、音がずっと向こうの壁をなぜ分かって遠慮するのか不思議だった。でも今なら何となく分かるな。
地上の国の風は本当に活きがいいもの。
夏休み日記 @akatukiharumachi
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