ディズニー! 前編
千夏と紫帆と陽翔と一緒にディズニーに行けること。僕は楽しみで仕方がなくて、待ち合わせの場所の1時間前に着いてしまった。今はまだ7時。スマホでも見て、待っていよう。
7時45分、千夏がハイテンションでやって来た。
「おはよーっ!夜瑠くんは相変わらず早いね。でも残念、紫帆はまだ来ていませーん♪」
千夏が人混みをかぎ分けて僕の元に走ってきた。一瞬誰だか分からなかったのは、派手すぎるメイクのせいだろうか。いつもと全然違う雰囲気を纏う千夏だけど、口を開けば紫帆と僕の恋愛事情を話し出すところだけはいつも通りだ。
「黙れギャルめ」
「はぁっ!?何でこんなカワイイアタシにそんなこと言えるわけー?!心外だわー」
うるさいのもいつも通り。まぁ、このぐらい元気な千夏が一番好きだけどね。
7時55分
集合時間前なのに、全力疾走してきた幼馴染みの紫帆。千夏がどうしたの?と聞くけれど、息が上がりすぎていて答えられない。
「ゆっくりでいいから、な?」
僕が背中をさすってあげると、紫帆はいきなり、謝ってきた。
「ごめんなさい…遅れて本当にごめん」
ん、どゆこと?それって遅刻してきた人が言うことじゃないの?そう思っていたら、千夏が冷静に言ってくれた。
「何言ってんの?まだ平気よ」
千夏がそう言っても、紫帆は泣きそうな顔をして首をふった。
「だって、もう11時くらいになっちゃったでしょ?みんなをこんなに待たせちゃった…」
千夏が困惑した表情で頬をかく。まだ時間じゃないけど…という僕の言葉を聞かず、紫帆はずっと謝り続ける。そんな紫帆をなだめ、ゆっくり話を聞いてみる。
「朝起きたら、9時だったの。昨日、ディズニーが楽しみすぎて全然寝つけなかったから、朝早く起きれなかったんだ。それで今日の朝になって、スマホがないことに気付いたから探していたらこんな時間になっちゃったんだぁ…スマホは見つかったんだけど、ホントにごめんね」
それを聞くと、千夏がいきなり笑いだした。(意味不明だけど)可哀想な紫帆を笑う千夏の神経を疑っていると、しばらくして千夏がこう言った。
「紫帆、今はまだ8時だよ。紫帆が起きたのは9時じゃなくて6時じゃないの?」
わははと笑いが止まらない千夏の言葉を聞いて、紫帆は慌ててスマホを確認する。それから力が抜けたように座り込む紫帆。
「そういうことか」
僕は紫帆の安堵の表情を見て笑った。紫帆、よかったなぁ。
8時13分
ゆっくりと陽翔が歩いてきた。待ち合わせの時刻を13分も過ぎているっていうことを自覚して、さっきの紫帆のように全力疾走してきてほしいところだけど。
「遅れてごめーん!」
人気者で運動神経抜群で勉強もできておもしろくて優しい完全無欠の陽翔。そんなコイツにも欠点は存在する。時計が読めない、のだ。いや、正確に言うと、ただ時間が守れないだけなのだけど。…まぁとりあえず、陽翔は約束の時間ピッタリに現れたことはない。僕たちはもう慣れているからいいけどね。
「さ、いこいこ!」
「楽しみだねー」
陽翔のことは無視して、新幹線に向かいながら楽しく談笑する女子2人。僕は苦笑しながら、陽翔と歩き出した…ー。
「いぇーい!!!ディズニーだぜ!」
駅を出ると、鮮やかなディズニーのキャラクターたちが僕たちを取り囲んだ。新幹線では僕たち4人とも(珍しく)早起きしたせいで、ヘトヘトになっていたのでぐっすり寝た。紫帆に叩き起こされて、気付いた時にはこんな楽園にいたわけだ。
「みにーちゃんだぁ、かわいーっ」
紫帆が赤いワンピースを着た愛らしいキャラクターに手を振る。跳び跳ねながら楽しむ紫帆。うん、お前の方が可愛いよ。
「写真撮って!インスタにあげる用♪」
紫帆が僕にスマホを渡してきた。
「ディズニーランドがちょっと見えるように撮って!…あ、エモい角度から撮ってよ?」
紫帆と千夏が2人で撮ったプリクラが入った綺麗なスマホケースを見ながら返事をする。
「分かってるよそのぐらい」
…ん?そういえば、エモいって何だ?
「ディズニー最高だわ」
ディズニーランドに入った瞬間、陽翔がポツリと呟いた。嫌なことは忘れさせてくれるような甘いポップコーンの匂い。キラキラ輝く世界…。
子供がここに住みたい、と言うのは素敵な夢だと思う。やっぱりウォルト・ディズニー様には、感謝しかない。
「今なら何でもできそうな気がしてきた!」
千夏が鼻息荒く声を張り上げた。でも、そんな純粋な気持ちを無惨にも壊しはじめた人間がいた。…おい紫帆、やめてくれ。
「そっか!じゃあ先に大学のレポートやっちゃったら?」
悪気は全くなさそうな優しい声に、僕たちの夢は破壊された。気まずくなった僕たちはまず、お土産を見て回ることにした。店に入ると、千夏が目を輝かせた。
「ねぇねぇ、4人でカチューシャつけよっ!」
紫帆はいいねー、とすぐさま賛同し、陽翔はぶっきらぼうにどっちでもいい、と告げる。
「僕も賛成ー」
そう言ってから僕は、レトロな棚に置いてあったミッキーのカチューシャをつけてみる。近くの鏡でチェックすると、我ながらすごくおしゃれに見えた。さすがディズニー。
「わわ、夜瑠めっちゃいいね!買っちゃいなよ」
人を誉めるのが上手な紫帆が僕に向かって拍手をした。うーん、やっぱり買っちゃうしかないよな、好きな人に誉められたしね。よし、このカチューシャを家宝として自分の部屋に飾ろう。僕が1人で想像力を働かせて楽しんでいる時、紫帆は先に家族へのお土産を探しに行った。そして陽翔と千夏は…ー。
「これいいね!私これにしよっかなぁ」
私、千夏!今日はめっちゃお洒落して、親友と友達と好きピ、仲良し4人組でディズニーに来てまーすっ。
えっと、実は今ね、好きピと一緒にカチューシャを見てるんだ!絶賛楽しみ中!そして、緊張中!陽翔くんったら、前屈みで探してるから、背の低い私と顔がすっごく近いの!もうホント、心臓破裂しそうだよヤバイ!
夜瑠くんは私たちに気を使ってくれてんだと思う。ありがたいっ!!!(紫帆に至っては気付いてないだけね)
「千夏見て。これめっちゃ良い」
陽翔くんは近くの棚に置いてあったカチューシャを取り、私の手に置いた。っ…手が触れる。私は真っ赤になる顔を隠すように下を向き、カチューシャを見る。
「このカチューシャ、ティアラじゃんっ!?」
陽翔くんが渡してくれたのは、プリンセスがつけるようなティアラにカチューシャがついたものだった。シンプルな白色だけれど、所々宝石みたいなものが埋め込まれていてキラキラ光る。
「俺はめっちゃいいと思うんだけどなー」
可愛いかもしれないけど、ブスがこれをつけたら劣っちゃうでしょ。私がつけたって似合わないから、嫌。
「私、さすがに無理」
「おっけー」
陽翔くんの諦めは、意外と早かった。…と思ったのに。
「おりゃー」
陽翔くんは小学生男子みたいな可愛い声を出してから、強引に私の手の中にあるティアラを取った。また手が触れあう。
「もーっ、そのぐらい自分で戻せるよー」
陽翔くん、棚に戻してくれるのかな?優しいなぁ。…って思ったけど、違った。
「動くな」
陽翔くんが私の耳元で、息を吹きかけるように小さく言った。私はそれだけで金縛りにあったかのように動きを止める。陽翔くんが私の頭の上に何かを乗せた。痛くないように、ゆっくり優しく。
「な、何をしたのよ!」
私は頭を押さえた。形は…ティアラ。さっきのティアラだった。陽翔くんは照れたように笑ってからこう言った。
「どうせ千夏は俺が何度言ってもつけてくれなかっただろ?」
鏡を見ると、そこにはティアラをつけた不格好な大学生が映っていた。
「やだ…紫帆とは違って私、可愛くないんだから。性格だって悪いし、これが似合う子なんて限られてるの。急にこんなことしないでよ」
ホントはキュンって胸が高鳴って、陽翔くんのことが好きで堪らなくなっているクセに。私は恥ずかしくて顔を伏せた。
ティアラをつけると一際輝く紫帆を想像してみる。長い黒髪をたなびかせながら照れ臭そうに笑う美女。やっぱり、可愛い。私とは大違いだ…。
「千夏」
「なに?」
「俺の目っておかしいかな?」
いきなり陽翔くんがそう問いだす。どうしたんだろ急に。
「え?」
「答えて」
「え?おかしくないと思うけど…」
「じゃあ、俺の頭っておかしい?」
いつもテストで1位取ってる人が何を言ってるんだか。
「おかしくないよ」
「そっか、じゃあ平気だ」
何が平気なの?陽翔くんったら急にどうしたんだろ。
「いきなり何よ」
私が聞くと、陽翔くんは私の髪の毛にそっと触れて言った。
「俺の目だって俺の頭だって正しいんだよな?んじゃあ、千夏が可愛くて性格が良いっていうのは…ー間違ってないじゃん」
私の瞳には、ミステリアスな笑みを浮かべて私に近づく陽翔くんの姿。陽翔くんが放った優しさの意味を考えると、顔から火が出たみたいに熱くなった。やっぱり、やっぱり私…ー陽翔くんのことが、好きだ。
【続く】
【あとがき】
こんにちは、作者の夢色ガラスです!
「男を知らなすぎる幼馴染みの扱い方について」を読んでくださり、ありがとうございました!今回は、4人の性格が分かる、4人らしいお話にしました!紫帆ちゃんは変わらず天然で、それを見守る主人公の夜瑠くん。2人にしか作り出せない関係を味わっていただけていれば光栄です!
そして今回、千夏ちゃんと陽翔くんの恋愛も描かせていただきました(*’ω’ノノ゙☆パチパチ
いつも、千夏ちゃんのテンションとギャルっぽさが味を出してくれてるなぁと思っていたので、千夏ちゃんのことを考えながら書きました。陽翔くんのクールなカッコよさに、千夏ちゃんと一緒に盛り上がってくれたらいいなと思っています!
次もキュンキュンするような4人のデートを、楽しんでいただけたら嬉しいです!
おもしろかったらいいねとフォローも待ってます!足跡残してくれた方のお話は後で読ませていただきますね☺️
それでは、ディズニー後編も、お楽しみに!
男を知らなすぎる幼馴染みの扱い方について 夢色ガラス @yume_t
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