第37話 亜空間トンネルの出口
◆◆◆ 37話 亜空間トンネルの出口 ◆◆◆
『地球上生命体の討伐累積値が一定数に達した為BランクよりAランクへ移行しました。
亜空間トンネルより湧き出る
「え?」
「ん?」
「は?」
穴の中で先を進んでいた三人は、突然のアナウンスに足を止めた。
「Aランク?俺じゃない」
「討伐者とは言っていなかったぞ!」
「侵入する地球外生物とAランクになった地球上生命体の討伐を推奨するって、新たな敵?」
俺達三人は集まり、この事を考えた。
人間では無いモノの可能性が高い。人間であれば討伐者と言うはずだ。だから新手は動物と仮定する。
そして突如Aランクになった事からこの高千穂以外の可能性が高い。なぜならスライム、サソリ、大クモ意外の生物を見た事がないからだ。
そして何モノなのか分からないので、当面は警戒態勢を強め、近寄る動物は全て排除する事で決まった。
当然ながら海軍指揮官にも報告するのは当然として、日本の軍隊、政府へも通達をするように伝令に頼んだ。
それから1時間余りで最下層へと辿り着いた。
雨が降り込む事も無かったからか、やはり地面には雨水も無く、時々現れる大クモなどの敵対生物しかいない。
そこで俺達はバックアップから防寒服を受け取り、交代で着こんで行った。
徐々に寒くなる中、俺達は防寒仕様の銃に持ち替え先を進む。
分かれ道と言う程のモノは無く、反対側から見れば木に生えている枝のような分かれ道しかない!
念の為に一つ一つを潰し、メインの穴を突き進む。
もう、この時にはダンジョンと言う感覚では無く、初めに聞いていたように亜空間トンネルと言うのが一番しっくりきていた。
侵入者を惑わせる迷路でも、地下の魔物が済むダンジョンでもない、単なるトンネルだ。
亜空間と名前が付くのは行き着く先は異世界か?それとも…………
「ん?」
「おッ!」
「来たわ!」
進んでいる先に明りが見えた!
俺達はスピードを落とし、警戒を一気に高めた!
平たい場所に平面に開けられた穴に見える。
そしてそこは外では無かった!
明るさはあるものの、どう見ても光る石の様な天井にしか見えない場所にトンネル出口があった!
デニスが先頭に立ち、指で合図を送る。
3・2・1・0!
指での合図と同時にトンネルからジャンプして出た!
そこには誰も要らず、妙な機械が石作の様な部屋の中に並んであった。
そして巨大な水槽の様なモノの中に、作られているのか、大きなクモが入っていた!
その隣にはサソリ、そしてスライムが並んだ水槽の中で作られている様子であった。
まるで培養されているように隔壁のような仕切りがあり、大きさで分けながら何かの液体に漬けられていた。
そしてその容器の中から一つスライムがシュートのような物で穴へと入って行く。
「止めるぞ!」
スイッチやモニターが水槽についてはいるが、その文字は象形文字なのか、全く意味が分からない!
俺はスライムの水槽に付いていた機械のトグルスイッチを全て反対側へと倒していく!
ブンッ
静かな音と共に出ている泡が止まり、水槽の明りが消えた。
「消えた!」
それぞれ機械に付いていた二人が俺のやったようにトグルスイッチを切り替え、全ての明りが消えた!
「これで、出てこないよな……」
暫く様子を見るが、それから一切敵対生物が出て来る事は無く、一安心するのであった。
改めて部屋を見るが、どう見ても石作りの大きな部屋だった。
その壁に並べてあるそれぞれの水槽の様な物。
部屋の中央寄り少し水槽側には、石を鋭利な物で綺麗に切られた様な穴があった。
そして水槽の反対にはこれまた分からない機械があり、その下からは金属の様な物が地面に這い、トンネルの穴の左右対称の四点で途切れていた。
「これが穴を作っていた機械?」
「かもな、触ると帰れなくなるから、触るなよ」
おいおい、フラッグを立てるなよ
俺は間違えて転ばないように横切り、機械と水槽の先にある大きなドアらしき物に近寄る。
この石で出来たドアをどうやって開くのか?デニスも同じ考えだったのか、ハンドルも無いドアを押してみた。
案外軽かったのか、音も無くスーっと開くドア。
ロストテクノロジーか?!
開いたドアの先には誰も居なかった。
そこは執務室なのか、机にモニター、椅子が置かれていた。だが、その机と椅子は明らかに大きく、172cmの身長の俺では椅子の座面に座れない程であった。
デニスが指を先に向けた。そこにももう一つのドアがあった。殺気から見えているこのドアも、だが、大きく作られている。
今度は間違えないようにデニスが軽く押した。
するとやはり音も無くドアが開き、その先は廊下のような広くて大きな場所に出て来た。
左右上下を確認し、廊下へと銃を構えて出る俺ら。
いつの間にか吐く息が白く無くなっており、汗ばむような気温になっていた。
そして次々に現れるドアを一個一個確かめていく。
寝室の様なデカいベッドのある部屋、デカいトイレ、何処からか食料を調達しているのか、キッチンらしき所と、冷蔵庫なのか訳の分からない保存庫のような容器、そして人口培養肉なのか、水槽の中にあるケースの中に入っている肉らしき物。
誰も居ないんじゃないかと思い始めた時、そのキッチンのドアを出た所にデカい巨人とばったり鉢合わせになった!
「グオオオオオオオ!」
体に響く地鳴りのような声が響いた!
◆◆◆ 38話 ◆◆◆
「グオオオオオオオ!」
体に響く地鳴りのような声が響いた!
目の前にいきなり現れた3m程の巨人に、間髪入れずにデニスとマリアが発砲する!
タタタタタタタタタタタッ!
タタタタタタタタタタタッ!
顔と胸へ向けた発砲に対し、巨人は両腕を横に合わせてガードした!
動きはノーマルの人間と同じなのを確認して遅れて俺も身を屈めてダッシュし、左手の手斧で膝上に斬り付け、通り過ぎ様に大鉈で膝裏へ切りつける!
キンッ カキンッ!
まるで鉄を切りつけたような感覚を感じ、真横へ飛び逃げる!
「ウガアアア!」
安全距離に逃げた時、遅れて腕の一振りが俺の居た場所へと殴りかかって来た!
そこへ俺の背後からバックアップの海兵が小銃を撃ち出す!
再び巨人がガードするが、その動きは遅く、そして鉄壁だった!
援護を受けている間に、両刃の手斧を完全に利き腕になっていた右手に持つと、ピッチャー宜しく思いっきり投げる!
単純な感覚で、ノーマルだった頃より軽く10倍、20倍を遥かに超える筋力で鋼鉄一体型のトマホークが音速を超えて刹那の間で変劇しようと開き掛けた腕の間に突き刺さる!
「ギャアアアアア!」
「もう一つ!!」
クイックモーションで投げるトマホークは、衝撃波を伴いながら腹と太ももの付け根に刺さった!
よく見ると身体は麻で編んだ貫頭衣の様な物を着こんでおり、頭は後頭部に長くてどこかで見た古代人の様でもあった!
端から銃が効かない事は分かっていた為、再び手斧を持つと、奴は銃で撃たれながらも走って逃げだす!
直ぐに角を曲がり、消えた先を負うと、そこは少し広いグラウンドと言うよりも体育館半分程もある広場だった!
姿が見えない事を理解したまま、全力で入口を走り抜けると、待っていたかのようにギロチンのような刃が遅れて振って来た!
ガコンッ!
遅い!
通り過ぎて奴を見ると、鉄棒の槍に両刃の斧が付いたような物、どう見てもハルバードの様な物を持った巨人が怒り俺に向かって来る!
手斧は残り三本!
チタンの剣を投げつけ、隙を伺いながら手斧を首へと向けて投げる!
真正面からの音速を超える手斧が見えたのか、それとも予測していたのか、両腕でガードされ弾かれる!
背中から小銃を取り出し、目を狙って撃ちながら瞬時に近づきチタン剣で脇を切るが、一発で折れてしまった!
弾倉を入れ替え再び小銃で撃つが、剣が怖いのか、ガードしたまま特攻して来た!
遅れて入って来てデニスとマリアが小銃で撃つも、貫通力に優れた5.56mmのNATO弾は身体で弾かれる!
俺もトップスピードになり、内ももの付け根をもう一本出したチタン剣で切り割いた!
「グオオッ!」
効いてる!
巨人は足を軽く引きずりながら更に奥へと逃げる!
背中を丸出しにしているが、銃で撃たれても効いてはいなかった。
その時、バックアップの一人が追いつき大声で伝令を飛ばした!
「伝令です!!富士にて進化したと思われるネズミが暴れています!日本軍に被害増大!至急援護を求むと連絡が入りました!」
「チッ!こんな時に!!」
「あのAランクの地球上生命体ってネズミ!?」
その隙を狙って巨人は奥にある部屋へと逃げた。
追いかける俺達。閉まりかけた扉を蹴り飛ばし、中へと突入するとすかさず振って来るハルバード!
予想していた通りに来たハルバードの鉄芯に大鉈を滑らせるように振り抜き、そのまま握っていた両手指を撥ねた!
「貰った!!」
大鉈を投げ捨て、落ちるハルバードを空中で奪い、思ったよりも重くない身の丈以上のハルバードで奴の腹を突き刺し、壁に縫い付けた!
ドボドボと落ちる内臓!垂れ流しに出て来る真っ赤な血液!
やったと思った瞬間だった。
俺の投げ捨てた大鉈を奴が大ぶりの一振りで反撃して来た!
「このくらい、ッ!!」
逃げようと思っていたら、背後には俺を守るようにマリがいた!
その隙に振り下ろされる一撃を左腕で払った!
ザクッ! ズパッ!!
宙を飛ぶ俺の左腕。
そしてその光景を見て口角を上げる巨人は、そのままその自重で身体を切り割きながら下にずり落ちて行った。
ガコッ
パチ パチ パチ パチ
次々に音が鳴る部屋の中、無くなった腕先を握りしめ、その音を確認すると、巨人の背後には幾つものスイッチが並んでいた。
「大丈夫!?ごめんなさい!」
ドバドバと出て来る血。だが、徐々に流血は収まりだしていた。
「もう直ぐ止まる。デニス!先に戻ってくれ!後から追いかける!」
「おう!」
その時だった、
『基地の電力供給が緊急停止されました。亜空間トンネルの維持が出来ません。消滅するまで凡そ1時間』
「え?」
「うっ!」
「早く!」
「撤退だ!!急げ!!」
デニスが叫ぶ!
俺もそのまま放置して撤退しようとするが、突然前にぶっ倒れてしまう!
体の動きが鈍い
目の前が暗くなる
「圭一!!」
マリアの声が聞こえ、抱きかかえられる。
「貧血かも、先に行って、間に合わなくなるから」
「いやッ いやああああああ!」
徐々に再生細胞が働いているのか、切られた腕はゆっくりとだが再生していた。
だが、失った血液は直ぐには再生しないんだろう。
俺の運命も此処までか。
「デニス行け。行って俺の家族に言ってくれ!最後まで戦ったと!」
「分かった。マリアはどうする?」
「一人になんかさせない!残るわ」
「スマン!絶対に戻って来る!絶対助けに来るからな!」
デニスは一人涙を堪えて走り出した。
デニスはCランク。本当の全力であれば戻れる可能性がある。来るときは合計4時ほど掛かっているが、帰り道に敵はいないはず。スタミナは無尽蔵にあり、時速100km/hとまではいかないが、それに近いスピードは出るはずだ。
「行け!行けええええええ!振り返るなああああ!」
聞えているかどうかなんて分からない。
ただ、辿り着いて欲しいだけだった。
「一緒に戻れば良かったのに」
横向きに抱きかかえているマリアに言った。
「言ったでしょ。最後まで見届けるって。年上は嫌い?」
「……前から言いたかったけど、好きだったんだ。あのスパイの件の前から思ってたけど、いつか言わなくっちゃって思って」
「そうだと思ったわ。視線が胸からいつも顔に変わってたから」
「すっと一緒に居てくれるか?」
「逃がさないわよ」
「逃げる所も無いけどな」
「ふふふ」
俺達は二人で微笑んでいた。
そしてマリアは俺を抱え、寝室の様な所へと連れて行かれた。
「暫く寝てなさい。此処にいるから」
「うん。そうするか。やる事もないし。」
「元気になったら私の全てを見せてあげるから。覚悟しなさい」
「リードできるかなぁ」
「期待しとくわ。さあ、ゆっくりして私も少し休むから」
俺の隣に横にんるマリア。
ああ、複雑な心境だ。
帰れないけど、今は幸せな気持ちだった。
電源が落ちるとどうなるかなんて誰にも分からない。
そして此処がどこなのか。生きて帰れるのか。
不安がないとは言わないが、何とかなる気がする。
その幸せな気持ちのまま俺は気を失うように目を閉じて眠りに付いた。
暗い夜道に一筋の希望と言う光を持って………………
ピ
ピ
ピ
ピ
ピピッ
『非情電源作動。生物プラントの停止により内部電源時間は地球時間でおおよそ5年あります。食料生産プラントを再起動、飲料水はスライムにて確保できています。マスターの権利はどうされますか?』
「圭一とマリアに移行する」
『了解しました。圭一とマリアの二人にマスター権限を移行します。火星から地球への亜空間ワームホールゲートを再構築しますか?』
「ノー」
『了解しました。亜空間ワームホールゲートは停止状態で維持します。地表に彗星と見られる水源地があると報告されていますがどうされますか?』
「この基地への危険性は?」
『此処は地下600mの場所です。問題ありません』
「地表への道を確保。水と食料以外は節電だ」
「明りとシャワーの水も必要よ」
『清潔を保つ水は再生水を利用しています。その他の地下水でまかなえていますので問題ありません。地表レーダー網に地球からと見られる探査船が来ていますが、どういたしましょうか?』
「無視…………イヤ、メッセージを送って貰える?」
「そうね、メッセージが良いわね」
『それでは探査船に送るメッセージをどうぞ』
「「デニス!早く来い!火星で待ってるぞ!」」
『確認します、デニス、早くこい、待ってるぞ。ですね』
「うん!」
「そうよ!」
「「あははははは」」
火星への探査船の中は宇宙人からのメッセージと混乱していた…………………………
――――ダンジョンだと思ったらトンネルだった――――
終わり
ダンジョンだと思ったらトンネルだった~ワームホールゲート闘いの神~ 永史 @nagaman
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