先生へのスーサイドノート

アンデココモモ

第1話

先生、これは私が中学生の頃から今に至るまでの話です。

 

私は中学時代、生真面目で堅物な素質が顕著に出ておりました。

なので大人、特に教師という者があまり好きではありませんでした。

大人という者は自分よりも経験を重ねているにも関わらず、何故口先だけで綺麗事を言うのか。

ましてや、生徒を教え導く立場の人間が何故そのようなことをするのか。

恥ずかしながら、当時の私は「外聞を繕う」ということさえも到底理解出来なかったのです。

私は「噓を付くな」と言いながら綺麗事を言う大人に対して「期待を裏切られた」と常に思っていました。

それが肥大化していき、大人というもの、教師というものに対して怒りさえも感じることがありました。

そのせいか、周りからは白眼視されていました。

あなたもご存知の通り、私の親は私に興味がありません。

私は孤独でした。

本当は私も人間を信頼したかったのです。

平気な顔をしていましたが、平気ではありませんでした。


そんな時期に、私はN先生と言う方と出会いました。

N先生は若い女性の国語教師で、髪が長くて美人でした。


N先生は、私に創作の手ほどきをしてくれました。小説、詩、俳句。

それらは私の孤独な世界を変えてくれました。

N先生は「将来は有名作家になると思うよ」とたびたび褒めてくれました。

私は他の大人とは違い、自分のことを認めてくれるこの先生に好意を持つようになりました。

私はN先生に会うために学校へ行くようになりました。


ただ、どんな人にも長所と短所があるわけで、N先生は教師としての素質はあまりなかったようです。

N先生のクラスが荒れていて、どれだけ大変だったかということは、他のクラスの誰よりも分かっていました。

それでも私は、N先生のことを尊敬してやまなかったのです。

それどころか、N先生が他の人に厳しく責められているのを見るたびに、苦しく思う日々でした。

私はただ、N先生と創作をして楽しむ日々が続けば良いと思っていました。


しかしN先生は私が中3になった時に、ぱったりと学校へ来なくなりました。

そして、私に別れを告げないまま、この世からいなくなりました。

泣きたいと思っても、涙すら出ず、頭が真っ白になりました。


 私はN先生のために生き続けようと思いました。

しかし、私にはこの幸福な人生が受け入れられないのです。

N先生は、私がこの世で1番敬愛している人は、私と同じように後ろ指を指されたがゆえにいなくなったわけです。

それなのに、私が幸せな人生を歩むなんてことは私にとって最も耐えがたいのです。


私は本心を隠しながら、生活をしていました。

が、ゆくゆくは自決するつもりでいました。

そして、それがたまたま今日だっただけです。

しかも、私の親が私に興味がないのはなんて都合が良いのでしょう。


今、私はN先生の好きだった曲を聴いています。

このまま私は眠りに落ちようと思います。

私はこの世から去りますが、あなたは生きてください。

そして、私のような犠牲者を二度と出さないでください。

生徒と向き合って、生徒を愛してあげてください。

私はあなたに対して、N先生の面影を感じることがあります。

だからこそ、あなたに期待しています。

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