第7話
ゆうくんが持っていた影をその子に近づけるとそれは吸収されるように消えた。
「んん……?」
男の子は寝ぼけ半分、といった声を出して目を覚ました。
「大丈夫?どうしてここにいるかわかる?」
私が問いかけるとまだよくわかっていなさそうな顔で
「かくれんぼしてて……」
と答えが返ってきた。
「誰と?お友達?」
「うん……かくれんぼして遊ぶから、見つけられるまで出てきちゃダメだって……。でも寝ちゃったみたい……」
「おうちわかる?送っていくから帰ろう?」
「うん……。夢の中で、いっぱい遊んで楽しかった……お姉ちゃんも遊んでくれたんだっけ?」
「うーん、遊ばれてた気もするけど……。とにかく、ちゃんと目が覚めてよかった。帰ろうか」
そんなやり取りを三人は黙って私に任せてくれていた。
男の子を家に送り届け、影騒動のことは伏せつつ事情を説明した。ご両親は警察へも行っていて、行方不明から今まで寝ていなかったようだった。彼を見つけた私たちに何かお礼を、と言われたが丁重にお断りした。トラブル解決の目的は果たせたのだからそれでいいよね。
学校に戻ったけど、予期せぬトラブルに学校は午前中で終了。
荒れた教室で、私はゆうくん達から話を聞いていた。
「奈緒ちゃん。説明すると言ったからには約束は守らないとね。薄々気づいてるかもしれないけど、この世には超能力やその素質を持つ人間が存在する。そして時に、ほんの僅かな素質を暴走させてしまう人がいるんだ。あの子もその一人だ。彼は自分を見つけてほしいが約束もある。そんな不安定な気持ちであれを生み出したんだろう」
「あの子、隠れる場所指定されたって言ってたけど、あの公園の木って虫とか腐りが問題視されてて今立ち入り禁止だったはずよね?」
「まあ、あんまりいい遊び友達とは言えない感じだったしな」
「……ねえ、その暴走ってまた起きるの?」
「彼は十分遊んだし、なんとなく事情は察してるだろうからきっとやっていけるよ。普通、暴走する力は本当に微量な素質が原因だから一度落ち着けば問題ない。ご両親も対応すると約束していたしね」
「それならよかった……」
「先に人の心配か……。超能力についてはいいのか?」
「あ、ねえ超能力って?」
「知らないのも当然。使える人があまりにも少なくて、能力の使い手が関りを持った相手に話すことでしか広がらないから。実際聞いた方が早いから、五希君からどうぞ」
「俺はうーん難しいけど、とりあえず『奇跡を起こす力』かなぁ」
「そんなすごい力あるの⁈」
「仮の名前みたいな感じだよ。家系につく能力名だし。俺は遺伝だから」
「超能力って遺伝なんだ……。静真君のもそうなの?物を動かすやつ」
「こっちはポピュラーだから飲み込み早いな。……遺伝ではないけど同じ超能力だ」
「そして僕は、簡単に言えば『人の心を読める力』かな」
「どうりで……」
「俺もなんとなく、自分の能力がばれてるとは思っていたが。おかげで今回協力するはめに……」
「秘密にしておきたかったの?でも奈緒が困ってるの助けられたし、結果オーライじゃん」
「ふふ、あんなにバレたくない!って思ってたら、僕には嫌でも伝わってくるんだよ」
「……チッ」
「ところで勇、お前に話があるんだ」
「え?何?」
「お前、この超能力もらってくれないか?」
「え?もらう?」
「今話してもよくわからないだろうから説明は省くが、この能力をお前に謙譲できるってことだ。お前みたいな奴ならうまく付き合っていけるだろ」
「私みたいな?」
「のほほんとしてて、お人好しで、平和主義で、抜けてるところとか」
「失礼極まりないね」
「あ!俺も奈緒に力分けたい!というか、一緒に居てくれたらそうなるかもって話だけど」
「どういうこと?」
「奈緒が好きだから一緒にいてほしい!」
「え??」
「ふーん、なんか面白い状況だね。僕も便乗しようかな」
「ゆうくん?」
「僕の力も、君に分け与えたいな。どうもトラブル体質みたいだし、この三人ならトラブルを避けるうえで一番役に立つ力だと思わない?」
「えーと……」
「おい、選べる力はひとつだ。俺が一番最初に言ったんだから、もちろん俺の能力だな?」
「えー、ずるい!俺も奈緒のこと好きなのに!」
「そんな話はしてない」
「奈緒、俺といたら絶対楽しいよ!」
「奈緒ちゃんは普通の生活がしたいよね?僕の力を選ぶなら全力でサポートもするよ?」
「あー、あはは……なんかよくわからないし……とりあえず置いといてもらって……」
「だめだ。ごまかしは許さない」
「そうだよ!ちゃんと答えてほしい!」
「まだ僕の能力がよくわからないなら、しっかり見せてあげるよ。今後君がピンチになった時は僕が守ろう」
「うわ、ゆうだけかっこいいのずるい。僕だっていいところいっぱい知ってほしいな~」
「知らないから、と断るならわかるまで教える」
「え、ええと……」
「よし、奈緒ちゃんにごまかされないように期限は一年ってことでどう?」
「賛成!」
「異議なし」
「私抜きで話が進んでく……!!」
「勇」
「奈緒」
「奈緒ちゃん」
「「「俺(僕)の力を選ぶよね?」」」
これが、私が聞いた超能力の話。そして、私が決断しなければいけなくなったとんでもない問題の話です。
これから私が多くのトラブルに見舞われ、彼らと行動を共にし戦っていくとは、夢にも思っていませんでした……。
最後に手にする力はひとつ⁈「それはもちろん、俺・僕だよね?」 藤間伊織 @idks
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