第6話
「それで、今影はどこにいるの?」
「多分あそこ」
そういって五希くんが指さしたのはたくさんのチューリップが植わった花壇の陰だった。
「でも、今曇ってるから移動しててもよく見えないんだ……」
「そういえば、急に曇ってきたよね……もしかして、あの影のせいかな」
「もしそうなら、ひょっとすると五希くんなら晴れに出来るかもしれないね」
「こいつに天気なんて変えられるのか?」
「そういう能力じゃないけど……」
「そりゃあ自然現象をどうこうしようと思ったら難しいけど、このトラブルの要素のひとつというなら話は別じゃないかな」
能力?段々私にわからない話になってきた。天気を変えられるの?……全然わからない。
「ちゃんと説明するからとりあえず今はあの暴れん坊をなんとかしよう」
ゆうくんは相変わらず聞きたいことを先に教えてくれる。
「やるだけやってみる」
そう言って五希くんはずっと持っていたサッカーボールを抱え、難しい顔をしていた。しかしすぐに変化は現れた。少しずつ雲が薄まり、雲間が見え、ついに青空と太陽が顔を出した。
「すごいけど……どういうこと……?」
「こういうのはイメージが大事って父さんが言ってたけど、初の成功だ!」
太陽の光できらきらと照らされる五希くんはとても嬉しそうだ。
「いたよ」
ゆうくんが花壇の方を見て言った。確かにそこには花壇の影より暗い影が縮こまっていた。こちらが見ているのに気づいていないようだ。
「なんとか触れられれば原因も探れるかもしれないんだけど……」
「こっちに……。ねえ、静真くんの力?でボールの速度を調整しながら転がせる?」
「転がすのは難しいな……。あいつのところまでボールをやるのか?だったら別に転がさなくてもいいんじゃ?」
「あの感じだと多分こっちに気づいてない。ボールが平行移動してきたら絶対バレる」
「じゃあ、俺がやってみようか?どこまで転がせばいいの?」
「あそこの奥に木が茂ってるところがあるでしょ?そこの陰にギリギリ届かないくらいが理想かな」
「それくらいならぴったり止められると思うよ」
「……そうなの?まあ、とにかくそのサッカーボールの陰に入って移動しているところを捕まえる。ボールを陰に触れさせないように回収するのは静真くんにお願い出来る?」
「わかった。でも、転がってきたボールにひょいひょい入るか?」
「そこは唯一の移動チャンスをつかんでくれると信じて……」
「大丈夫か……?」
「転がすよ~。よっと」
ボールは順調に転がり、花壇の陰に触れさらに奥の木陰にギリギリ触れないかの位置で止まった。そして、そのサッカーボールの陰に私の影が入ったのを私たちは見届けていた。すぐにサッカーボールが持ち上がりこちらへ向かってくる。どの地面の陰にも触れず。
そのボールの陰にゆうくんが触れると、すっかり小さくなった私に似た形の影がいた。
「この子……。よし、こっちだ」
そう言って歩きだしたゆうくんに私と五希くんと静真くんは大人しくついていく。
学校の裏手の方まで来ると、フェンスから公園が見えた。ゆうくんはフェンスを乗り越え、公園の中で一番大きいブロックが積みあがったような遊具に向かう。
「見つけたよ」
ゆうくんの視線の先にいたのはまだ小学生くらいの男の子だった。
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