第5話
「まさか、暗いところだと力が強くなるのかな?」
異常な音をたてて閉まった扉を見ながら在明くんが言った。
「みんなは自分の教室のことでいっぱいいっぱいだったし、誰も気づいてなさそうだよね」
「まんまと罠にかかったってことかよ」
「本当に開かない……!」
扉は私がどんなに力を入れても開かなかった。
「だけどさ、この部屋にいるのは間違いないはずだし、あれを見つけられれば開くんじゃない?」
「静真君なら開けられそうだけどね」
「……学校壊すわけにはいかないだろう」
? 静真君はそんなに怪力なのだろうか。
「さっきの反応を見るに、あの影が一番見えているのは奈緒ちゃんみたいだね」
「え、そうなの?」
「俺もそう思った。俺より速く目が追い付いてた気がするし」
「そういうことだから、そこから影の位置を僕らに教えてくれないかな?そしたらこの懐中電灯で照らして追い詰めていく」
そういうと在明くんは静真くんを引っ張り教室の後方、五希くんは教室の前へ行った。
「でも、暗くてよく見えないし……」
「じゃあ……ここだ!」
そういって五希くんは床の一点を照らした。すると、ほんの一瞬だったが影の端が見えた。
「え、嘘、なんで……!」
「ただの勘。俺がこんな感じで照らすから、奈緒はそれと気配で追っかけて!」
「わかった!」
五希くんに励まされ、気合を入れ直す。五希くんの光はかなりの的中率で、影の動きも分かりやすかった。
「五希くんは右、静真くんは少し上、ゆうくんはそのまま!」
そんな感じで指示出しをし、順調に影を光の囲いに収めていった。在明くんは苗字だと長くて不便なので、名前で呼んだ方がいいと本人から提案された。
「やった!捕まえた!」
ようやく追い詰めた、と思うと小さくなっていた影が小刻みに震え出した。教室の後ろに積んであった机がガタガタと音をたてる。
三人から離れた場所に立っていた私めがけて思い切り机が飛んできた。が、その机はぴたりと目の前で動きを止め、ぽいっと投げ捨てられるように転がった。
「今日だけで三回目だぞ」
と静真くんが言った。今の、静真くんが止めたの……?
訳が分からないまま影を見ると、少しずつ動いており私が口を開く前に、今の一瞬の隙をついて窓から外へ逃げ出した。
「外に!」
急いで追いかけようと扉に手をかけたが、背後で聞こえた「おい!」という声に振り返ると、五希くんが窓から飛び降りていた。
「え⁈なんで⁈」
「窓が開いたからって僕らの制止も聞かずに飛び降りたよ」
確かに二階だし死ぬ可能性は低いけど……!
「五希くん!大丈夫⁈」
下をのぞき込み呼びかけると、茂みの中から五希くんが顔を出した。
「木の枝も使ったし、茂みもあったから平気!俺が見失わないうちに下りてきて!」
「あいつ……!」
「まあまあ。静真君、お願いしてもいい?」
ゆうくんは窓枠に腰かけにっこり笑った。場面が場面ならさぞ絵になったと思う。次の瞬間には飛び降りたけど。
しかしゆうくんは地面に叩きつけられることなくふわりと着地した。なんで⁈
「お前も行け」
「え⁈私も?」
「勇がいなきゃ捕まえられない。この力とは長い付き合いだから心配するな」
「力?」
静真くんは教室の中にひょいと手招きした。すると机がひとりでに動いて窓を飛び出し、宙に浮いていた。
「これに乗ればいい。エレベーターみたいなものだ」
そういって静真くんは先に机に乗り移り、こちらに手を差し出してきた。躊躇いつつもその手を取ると、ふわっと下降を始める。安定した動きで地面に到着すると、静真くんは机を元の教室に戻していた。
「全員揃ったね!奈緒の姿で悪さするなんて、早く止めなきゃ。サッカーの約束もしてたし。よーし、第2セット開始だ!」
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