第4話

「在明くん?」

「また会ったね、なんて言ってる場合じゃないよね。何かあったでしょ?」

「え、うん。それが、ええと……」

「大丈夫。落ち着いて。何があったかだけ思い出してくれればいいよ」


私は気持ちを落ち着けようと伝えたいこと、あったことを思い出した。

「あのね……」

「オーケー。大体わかった」

「え?何も言ってないよ⁈」

「校舎に戻ろう。……おや、君は同じクラスの……静真君、だったかな」

「……」

「……」


二人は数秒見合って、というかにらみ合っているように見えたが、在明くんはにま、と笑って

「……そうか、面白いね。是非僕らと一緒に来てくれないかな」

と言った。私にはさっぱりわからなかったが、静真くんは驚いた顔をした後渋い顔で頷いた。


校舎へ走って戻ると、外へ行こうとしていたサッカーボールを持った五希くんたちに出会った。


「あれ?奈緒?でも、さっきすれ違ったような……?」

「え、すれ違ったか?」

「五希くん、その私、どこに行ったかわかる?」

「階段上がって、教室の方行ったと思うけど……」

「ありがとう!」

「五希君。ちょうど声を掛けようと思ってたから、ナイスタイミングだ」

「え、ゆうが俺に?どうしたの?」

「僕らと一緒に来てくれないかな?」

「ん-、よくわからないけどいいよ!」

「……あっさりしすぎだろ」

あれ、今静真くん突っ込んだ?さっきから黙ったままだったけど……。


「……とにかく行かなきゃ!」


教室に向かう階段を上がる。上がった先はかなり大変なことになっていた。

まず薄暗かった。曇って来た時に電気をつけたはずだが、この階のすべての電気が消えている。廊下に出ると、今度は水浸し。水道から水があふれているみたいだ。教室の中からはみんなの戸惑いの声が聞こえてきた。


「電気がつかなくなった!」

「水で転ばないように気をつけろ!」

「痛いっ!なんかぶつかってきた!」


一番近かった自分の教室に入ると電気だけでなく机や椅子もぐちゃぐちゃに荒れていた。他のクラスもこんな感じかもしれない。


「どの教室にいるんだろう……」

「そうだ、静真君、ごにょごにょ……よろしく頼めるかな?」

「……わかったよ」

そんなやり取りのあと静真くんは教室から出て行った。後姿を見送ると、視界の端に黒いものが横切った。


「二人とも、廊下にいた!走り回ってる。なんとか捕まえられるかな?」

「ねえ、なんでみんな避けないんだろう」

「え?」

「影。みんなぶつかられてるから、なんで避けないのかなって」


五希くんの言う通り、確かにみんな、私のにぶつかられていた。そのパニックで私も影を見失いそうになっている。


「そうか。奈緒ちゃんのは奈緒ちゃん本人と僕、五希君にしかよく見えないのかも」

「そうなの?」

「恐らく。さっき五希君と一緒にいた彼には見えていなかったみたいだったし」

そのとき、影は急な方向転換をしてこっちへ体当たりをしようとしてきた。

「奈緒!」

そちらを見ると同時に、飛んできたものをキャッチする。それは教科書だった。ぱっと反射的にそれを盾にすると、影は私に触れる前に弾き飛ばされた。


「⁈」

「やった!」

「影が出て行ったよ!」

その衝撃のまま、影は教室から走り去ってしまった。


「!!」

「逃げられる!」

「追いかけよう」

その影が向かったであろう先ではそこそこの被害が出ており、とりわけ「誰かにぶつかられた!」という悲鳴が多かった。

追いかけた先、行き止まりにあったのは「特別教室」だった。普段の授業では使われず、とりあえずある教室というイメージだった。電気がついておらず、窓一面が茂った木で覆われ一層薄暗い。基本的に使わないから日当たりも気にしなくていいんだろうとは思うけど。


「はぁ……移動するなら言えよ……はぁ」

そこで静真くんが戻ってきた。

「お疲れさま、静真君」

「静真、何してたの?」

「これ」

そう言って静真くんは持っていたものを全員に放ってきた。私たちの手に収まったのは懐中電灯だった。


「職員室からとってきたけど……ここから遠いんだよ……」

「ゆうくん、これでどうするの?」

「あれはどうやら暗いところが好きみたいだからね。これで引っ張り出せるかもと思って」

「懐中電灯で?」

「ああ。今電気はつかないようだからね」

そう言って在明くんは教室に入った。

後ろをついていき、全員が教室に入ると扉が勢いよく閉まり開かなくなった。


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