ベリーベリーキャンディ

クロノヒョウ

第1話



「じゃあお先ぃ」


「おう、お疲れ」


「またな」


 ドラムとベースの二人はバンドの練習を終えるとすぐにスタジオを飛び出した。


 この後彼女とデートの約束があるらしい。


「お前は?」


「俺はもう少し練習するよ」


 いつも残って黙々とロボットのようにギターを弾き続ける和也かずや


「しょうがねえな。俺も付き合うよ」


 そう言いながらもこの和也との二人きりの時間が俺にとっては最高の時間だった。


 俺は和也に恋をしていた。


 もともと違うバンドでギターを弾いていた和也。


 ライヴの対バンで和也のギターを聴いた瞬間俺の心は和也に奪われた。


 すぐに和也のファンになった。


 それからしばらくしてたまたま楽器屋で和也を見かけた。


 俺はすぐに声をかけた。


「よかったら一緒にバンドやらないか?」


 突然知らない俺にそう言われた和也は可愛らしい顔をきょとんとさせていた。


 大きな瞳で見つめられた俺の胸はキュンキュンと音を立てていた。


「いいけど……」


「いいのか!?」


 ラッキーにも和也はあの時ヘルプを頼まれただけでバンドは組んでいなかった。


 同じ歳で高校も近くで俺たちの曲も気に入ってくれた和也。


 あれから半年、俺の和也に対する想いはどんどん膨れ上がっていった。


 こうやって二人きりになれるだけでもいい。


 とにかく和也と一緒にいたい。


 だからこの時間は楽しくてたまらないものだった。


 しばらく和也とギターを弾いて歌っていた。


「なあ、和也は彼女とかいねえの?」


 休憩して楽器を置き二人で床に座った。


「ん、彼女はいない」


「そっか……ゴホッ」


 ちょっと歌いすぎたかもしれない。


「大丈夫? 真佐人まさと


 咳をする俺を心配そうに見つめる和也。


「ああ、ちょっと喉休めれば平気」


「ごめん、いつも練習付き合わせて」


 申し訳なさそうな顔をする和也。


 そんな顔しないでくれ。


 俺がただお前と一緒にいたいだけなんだ。


「バカ、俺がやりたいからやってるだけ。和也のギターで歌うの気持ちいいし」


「本当に? そう言ってもらえると嬉しいよ」


「おう」


 嬉しそうな顔で喜ぶ和也。


 俺の胸の鼓動がどんどん早くなる。


 できるなら、今すぐお前を抱きしめたい。


「あ、そうだ、俺キャンディ持ってるよ。なめる?」


 和也はそう言って自分の口をぱかっと開けた。


 口の中にはキャンディが入っていた。


「ちょうだい……」


「あっ」


 我慢できなかった。


 俺は思わず和也にキスをしていた。


 和也の口の中に舌を突っ込んだ。


「んっ」


 キャンディごと食べるように和也の舌にしゃぶりついた。


 気持ちよくなった俺は和也の小さな肩をつかみ自分の体を押し付けていた。


「んあっ、真佐人っ」


 和也に名前を呼ばれた時、俺は我に返った。


「わっ、ごめんっ」


 唇を離して和也の顔を見た。


 真っ赤になって息を荒くしている和也。


「ごめん和也……俺……」


 俺の口の中は甘酸っぱいベリーの香りでいっぱいだった。


 いや、そんなことより俺はいったい何をやらかしてんだ。


 終わった。


 きっともう嫌われた。


「謝らないでよ」


「えっ」


 和也が顔を上げて俺を見た。


「なんで謝るの?」


 涙目で俺を見上げている。


「えっ、いや、キスなんかしてごめん。気持ち悪いよな、男とキスなんて」


「真佐人ならいいよ」


「へっ?」


「ねえ、どうしてキスしたの?」


 和也の顔が近付いてくる。


「それは……その……和也のことが好きだから」


 思わず目をそらした俺の顔を覗き込む和也。


「本当?」


「ああ。初めてライヴハウスでお前を見て一目惚れした。だから楽器屋で見かけた時、思わず声かけた」


「……そうだったんだ」


「だからその、ごめん。和也が好きで下心があった。迷惑だよな。俺なんかに好きとか言われて。あれだったらバンドも辞めていい……」


「俺も好きだよ」


「……は?」


 見ると和也はさらに顔を赤くしていた。


「俺はもっと前から真佐人のこと知ってた。ライヴハウスで見る度に格好いいなって思ってた。真佐人の歌も好きだし真佐人のことも好き」


「ほ……ほんとか?」 


「うん。だから一緒にバンドやれるのも嬉しかったし、その……キスも嬉しかった」


「和也……」


 俺は和也の肩を掴んだ。


 まさか和也も俺のこと好きでいてくれたなんて。


「俺も和也が好きだ」


「うん」


 俺は和也を抱きしめた。


「ゴホゴホッ……」


「ねえ大丈夫なの真佐人?」


 また咳こんだ俺を心配そうな顔で見上げる和也。


「大丈夫。さっきのキャンディでだいぶ落ち着いたから」


 俺は和也の唇をそっと撫でた。


「キャンディ、あと10個あるよ」


 ポケットをごそごそしていた和也の両手にはキャンディの袋がたくさん乗せられていた。


「ふはっ。じゃああと10回キスしなきゃだな」


「ええっ、10回だけ?」


「はは、何回でも……」


 俺は愛しい和也の小さな唇を食べるかのように何度も何度もキスをした。



            完





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