老婦人と少年、18歳

@tukeogoma

短編

「私、この宝石のために命を捨てたのよ」

カフェのテラス席で、年配のご婦人が指輪となったアレキサンドライトを見せた。

僕には陽の光に照らされた緑色の石にしか見えない。

「命を捨てたにしては、生き生きとされていますね」

僕はコーヒーを飲み、婦人を見る。

息もしているし、化粧のおかげかも知れないが顔色も悪くない。

「女の命って沢山あるのよ」

婦人はシルバーに輝くショートヘアーの白髪の毛先に触る。

「一生この長さまでしか伸びないのと交換に、悪魔から手に入れたの」

僕はその言葉に驚いた。

「何だ、騙しやすそうな婆さまだと思ってお茶に誘ったのに。二重契約はできないのが悪魔のルールなんだ」

ため息をつき、カフェの代金を置いて席を立つ。

「かわいい男の子とお茶したくて。騙してごめんなさいね」

「地獄でまた会えるでしょうから、その時にご馳走してください」

「ええ、その時までに素敵な悪魔におなりなさい」

カフェのテラス席には婦人だけが残り、コーヒーを飲み干した。


-おわり-

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