第32話 米内山 陽子(劇作家・演出家・舞台手話通訳者)

 アニメ『ゆびさきと恋々』を見て、とても気になる部分がありました。

 それは、手話の動きが自然なこと。あと、日本手話の表現も、とてもなれた感じがしたのです。

 誰がこの手話の監修をしているのかがとても気になり、調べて出て来た名前が米内山陽子よないやま ようこさんでした。

 ご両親共に聴覚障がい者で、お父様は米内山明宏さん。

 日本ろう者劇団の前代表のかたです。


 お父様が日本ろう者劇団をされている事もあり、幼い頃から演劇を見てきたとのこと。

 ろう者劇団だけではなく、聴者の演劇もだそうなので、この時点で舞台手話通訳者としての土台が出来たのかもしれません。

 ご本人は役者を目指されて、劇団に入られました。役も貰えたのですが、周りの役者があまりにも凄く(元宝塚や別の劇団で主役クラスをやっていた方など)て、やめることにしたのだとか。


 それでも演劇ご好きで、演劇に関わることをやりたいと、脚本を書き始めたそうです。

 やはり演劇に関わると、父親と比べられることもあるようで、複雑な気持ちになるらしいですね。言葉を、微妙に濁していました。


 どこかに所属するわけでもなく、フリーで脚本を書いていた為、報酬はかなり低かったそうです。資料を買うだけで、赤字になるような報酬と言われてました。

 それでも中途半端は出来ないと、資料を買っていたそうです。

 脚本を書くことが好きで、作品に対してストイックに、真摯に書き続ける日々。


 そんな米内山さんに、妊娠という転機が訪れます。これを機に、仕事を辞めようとしましたが、好きな事はやめられず、フリーから事務所に所属を決意。そこで改めて脚本の書き方を勉強して、食べていけるだけの仕事が来るようになったそうです。


 本人いわく、ここまで来れたのは、人の縁によるところが、大きかったとのこと。

 医者にいわれた言葉で、脚本を書き続ける気持ちに火がつき、諦めずにすんだそうです。友人に食べていけないことを言ったから、新しく出来たばかりの事務所紹介してもらい、入るきっかけとなりました。

 本当に縁とは大切だと、私も思っております。


 舞台手話通訳は、まさに米内山陽子さんならではの職業かと思います。

 手話通訳は『そのまま翻訳』すれば良いわけではありません。

 特に日本手話は『見る言語』と言われていますが、逆に『文字化の難しい言語』でもあります。

 日本語と日本手話で、同じものを同じスピードで行い、同じタイミングで観客からの反応が起きる……というのは、まさに神業。


 ろう者の両親の間で育ち、幼い頃から舞台に慣れ親しみ、役者と脚本家の経験があるからこそ出来るものではないでしょうか。どこか他と違ったアプローチを、米内山陽子さんの『ゆびさきと恋々』や『しゅわわん!』等の手話関係アニメだけでなく、作品全体に感じられました。

 

 

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