第4話 やる事は決まった
「じゃあ、出かけようか」
食べ物がなくなると、ヒロさんは素早く包み紙を片付けながら立ち上がった。
「出かけるって、どこへ行くんですか?」
「さっきも言ったけど『カミカクシ』が『こちら側』へ姿を現すのは、捕食の時だけなんだ。そして、補食のタイミングは『2つの世界の君』が『1つの君』になりかけた頃」
世界なんて言われると、いきなりリアリティが感じられなくなってくる。とはいえ、目の前で腕を消す(移動させる?)人が言っているのだから、きっと本当なのだろう。
「それって、今からどれくらい後の話なんですか?」
「人によって違うね。何ヶ月も掛かった人もいたし、1時間もしない場合もあった。ただ『2つの世界の君』を『1つの君』にするスピードを早める方法なら知ってるよ」
と、ヒロさんは席を離れ、ゴミを仕分けしながら言う。そこそこ大きな声で。
周りに人がいなかったわけではないけど、たぶんゲームの話かなんかだと思っているんだろう。誰一人振り向きもしない。
まあ、わたしが逆の立場でも、同じ反応をしただろうけど。
「それって、危ない方法だったりします?」
「危なくはないよ。君と関わりの深い人物に、直接触るだけ。ね、簡単でしょ?」
「……触る?」
「ほら、さっき男に触られて、思い出したんでしょ? 以前の自分が、ろう者だったって」
「あぁっ」
言われて、わたしは納得した。
桐咲に手を触られた瞬間、ほんの一瞬で違和感が流れてきた。そして知らない間に、入れ替わっていた記憶。
これと同じ事を、これから何度かしなければいけないのか。
「でも、誰に触れたら良いの?」
「君と関わりの深い人物だよ。たとえば親や兄弟みたいなの、いる?」
「両親と妹がいるけど、仲良くなんかないし。会っても何も起こらないかもしれない」
あれ?
両親や妹がいたことは思い出せるのだけれど、それ以上が思い出せない。
別の世界にいた私の記憶が、この世界の私の記憶を拒否しているのだろうか。
身近なことすらわからない心細さ。
逃げ出したい気分だ。
もちろん、逃げ出したからといって、何も解決しないことくらい、わかってはいる。そもそも、逃げて行く場所すら、思いつかない。
「他にアテがないなら、行くしかないでしょ」
ヒロさんはそう言って、さっさと階段へと向かった。
もっともな意見だ。
気が重い。
重いけれど、わたしはヒロさんに着いて行くしかなかった。
全てのことが、どうも『あやふや』な状態。まるで作りかけの物語みたい。
階段を降りながら、そんなことを考えていたのが失敗だった。
階段が終わって、1階へ着いたのに、まだ段があると勘違いしてしまった。そのせいで足運びが変になってしまい、転びそうになりつつ、前に3歩進んだ所で踏ん張る。
トン。
踏ん張ると同時に、歩いていた人とぶつかった。
「す、すいません!」
顔を上げて、ぶつかった人を見る。
ぶつかった人も、私を見ている。私と同じ年齢(17才)の、赤縁メガネを掛けた女の子。目が細いと気にしていたけど、気にするほどじゃないのに……。
彼女は見覚えのある、薄いピンク色のパーカーを着ていた。お気に入りのヤツだ。
彼女の名前は、四ノ
親友といっても良い仲だ。なのに、私は忘れていた。
そして、元の世界の『琴乃』の記憶が流れ込んでくる。
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