第2話 カミカクシ

「じゃあ、わたしが別の世界の『わたし』と、1つになろうとしているってこと?」

 大衆向けハンバーガーショップの2階で、ヒロさんが話し出したのは、突拍子もないSFだった。


 この世には、いくつもの『可能性』の世界があって、普段は交わることがないらしい。

 ただ『カミカクシ』と呼ばれるモノは、そのを交わせることが出来るそうだ。

 つまり、『わたしが ろう者』の世界から、『わたしが聴者』の世界へ来て、2つの『わたし』が融合しようとしている。という事らしい。


「それにしても、その『カミカクシ』の目的は何なのかしら」

「食べるためだよ」

 とヒロさんは最後のポテトを、なごりおしそうに口の中へ入れながら言った。

「は?」

「知子さんを食べるためだよ。あっ、食べないんだったら、そのポテトもらって良いかな?」

 この男、絶対に空気の読めないタイプだ。

「わたし、殺されるの?」

「僕が助けるから、大丈夫」

 と、わたしのポテトを片手に、ニコニコしながら言われても、全くもって説得力がない。

 逆に不安が高まるんだけど。

「助けるって、具体的にどうするんですか」

「簡単に言うと『アレ』が、君を食べようとした所を倒すだけ。そうすれば、君も元の世界へと戻れる……といっても、半分は元々この世界の君だから。つまり半分の君は、この世界に残るわけさ。あと、のに時間がかかるから、戻るのも少しずつにはなるはずだけど」

 この男は、とんでもなく壮大なことを、近所へ買い物でもいくみたいに言いながら、わたしのポテトを食べ始めた。

 ホント、大丈夫なのだろうか。

「あの、いま『カミカクシ』をやっつけちゃえば、簡単に解決するんじゃないですか?」

「あ~ムリムリ。だって次元が違うから」

 と即座にヒロさんが否定する。

 なんだか、いままでと違って弱気な発言だ。

「やる前からそんな……」

「いや、強さという意味ではなくて、本当に『次元』が違うんだよ。世界が違うと言った方がわかるかな。例えば、2次元の人物が、3次元の人物を触るとか、無理なのはわかるかな?『カミカクシ』が『こちら側』へ来るのは、捕食の時だけなんだよ。残念ながらね」

 わたしが納得していないとわかると、先程までポテトを持っていた右手を、私の方へと伸ばす。

 伸ばした……はずだったのだけど、伸ばした分だけ指の先から消えていった!

 目の前でスルスルと、もう肘の辺りまで消えている。

「こんな感じ♡」

 ヒロさんは微笑むと、手を引いて肘から先を戻した。

「でも僕は『アレ』ほど高次元には届かないんだ」

 と、元に戻ったばかりの右手は、残ったポテトへと向かっている。

「率直な質問なんですけど、ヒロさんのその力は何なんですか?」

「僕のことはヒロで良いよ。その方が萌えるから♡」

「教えてもらえますか? 

 ヒロさんは、わたしのポテトを一気に食べ干すと、急に真剣な表情へと変わる。

 そして、いままでのトーンとは明らかに違う口調で、こう言うのだった。

「そのうち嫌でもわかる時が来るよ。その時が来たら、君は僕と食事なんてしようとは、思わなくなるだろうけどね」

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