初恋ループ
蓬餅鶴ん
第1話 初恋と神と骨折と
【4月7日】
高校生になったこの春、俺は恋をした。
恥ずかしながら初恋だ、一目惚れだった。
自分は人を愛せないんじゃないかと苦悩した時期もあったが余計な心配だった。
今日は入学式なのでまだ名前も知らないが善は急げという言葉にしたがって今から告白をしようと思う。
「あのー、すいま
◆
高校生になった春、俺は恋をした。
恥ずかしながら初恋だ、一目惚れだった。
自分は人を愛せないんじゃないかと苦悩した時期もあったが余計な心配だった。
なんだかすごくデジャブな感じだがこれが初恋の副作用なのだろう。
今日は入学式なのでまだ名前も知らないが善は急げという言葉にしたがって今から告白をしようと思う。
「あのー、すい
◆
高校生になった春、俺は・・・
さすがにおかしい。
謎の力が働いて俺の告白を邪魔しているとしか思えない。
ならやることはひとつ、今すぐに告白をする。
「あ
◆
『おいバカ、聞こえるか?おいバカ』
頭の中で声がする、初恋とはなんて恐ろしいものなんだろう。
『初恋の副作用じゃねーよ』
「俺にも少し遅れてやってきたのか、厨二病ってやつが」
『イマジナリーフレンドじゃねーよ』
「ほんとに誰だ?お前が告白の邪魔をしているのか?」
『俺は神だ。そして告白の邪魔どころか手伝いをしてやっている』
「神?!全く持って手伝いになってないんだけどぉ?」
『あのまま告白して成功するわけないだろ。だから時間を戻してやったというのに、なんでお前は過ちを繰り返す』
「いやそんなのわかんねえだろ神じゃあるまいし」
『おい信じてないのか』
「じゃあお前が本当に神だとして、なんで俺を手伝ってくれるんだ?」
『・・・前世で地球を救ったからだ』
「まじかよ俺、すげえな」
『そう、だから俺はお前が生まれた時から手伝う準備をしていたのに、いつまでたっても恋に落ちないし、落ちたら落ちたで即告白とかとち狂ってるし、ほんとになんなんだよお前!』
「いや頼んでないし、別に恋愛以外でも良かったんじゃないの?」
『・・・前世でのお前の未練が恋人が出来なかったこと、だったからな』
「知りたくなかったよ」
『まあとにかく、俺はお前の恋が成就するまで手伝ってやるから、上手くやってくれよ』
「わかった、ありがとう」
『そんで今お前、独り言のせいですんごい目立ってて入学初日から浮きまくりだから一旦戻すぞ、俺との会話は頭の中でできるから』
(おーけーかみさま)
『ご武運を』
◆
おお、本当に戻った。
ええっと、即告白はダメだから・・・。
俺の名前は神野(かみの)籃(らん)、先程の出来事のせいで自分の名前に少し恐怖しているごく普通の男子高校生だ。
入学初日に俺は名前も知らない彼女に一目惚れしてしまった、そこで告白しようと
『おい、そのラブコメの導入部分みたいなのいらないだろ』
(
『お前がまた即告白しないか見てただけだ、常に見ていられるわけじゃない。せいぜい頑張れ』
(言われなくとも)
気を取り直して・・・。
入学式初日に俺は名前も知らない彼女に・・・。
あれいない。もう校舎入ったのか。
「ランおはよー!」
「おはよう、今いいとこなんだから邪魔しないでくれ」
こいつは俺の親友の一ノ瀬(いちのせ)恋太(れんた)、名前が俺より主人公してるやつだ。
「邪魔って?なんの?」
「ラブコメの導入部分」
「いつになく頭おかしいね」
「俺は常にまともだ」
「クラス、一緒かなあ」
「どっちでもいいよ」
「照れんなよ〜」
「ちげぇよ」
今は友情よりも恋愛!って感じの気分なのだ。
『最低』
(はよどっかいけ)
「人多いな〜こっからじゃ見えないからラン代わりに見てくれ」
「コンタクトつけろよ」
「怖いからやだ〜」
「メガネつけろよ」
「授業中だけで十分」
8クラスもあるのか。
クラス違ったら決まる前に戻れないだろうか。
・・・。もういないのか。
「レンタ8組、俺1組」
「おいおいおい、もう少しワンクッション置いてから教えてくれよ」
「頼んだのレンタじゃん」
「ドライになるのは高校デビューとは言わないんだよ」
「ちーがうよ、つかそれ意味ちょっと違くね」
「まあいいや、俺の新入生代表挨拶、しかとその目に焼き付けろよ」
「はいはい」
「ドライになるのは以下省略
◇
教室に近づくのが怖い。
心臓がまるでトランポリンになったようにうるさい。
・・・。俺に難しい表現は向いてないな。やめよう。
つまりすごい緊張している。
俺は思い切って教室に踏み込んだ。
ラブコメとかでよくある?あれだ、恋した場面で風が吹いてきて髪がファさあ〜ってなるやつ。
そんな感じがした。
(いたーーー!いたよ!やったーーー!!!)
俗に言う主人公席に彼女はいた。
もうこれは恋が成就したといっても過言ではない。
座席表で自分の席を確認がてら彼女の名前も確認した。
(
名前もかわいい、これはヒロイン。
しかしどうしたものか。
彼女と同じく席は1番後ろなのだが間に列が3つもある。
早くも俺と彼女との間に困難が立ち塞がってきた。
ひとまず土日の休みで作戦を立てるとしよう。
◇◆◇
【4月10日】
『おい、入学式飛ばしていいのかよ』
(入学初日から彼女と接点を持てるわけないだろ、ラブコメとはいえちゃんと現実なんだから)
『いやそうじゃなくて、明らかに友達の新入生代表挨拶はやる流れだったろ』
(ラブコメ読者が興味あるかそんなもん、俺はちゃんとレンタが段差でつまづきそうになる姿を目に焼き付けたから大丈夫だ)
『薄情者』
(それよりも俺が今なぜ職員室に向かっているか分かるかね?ワトソンくん)
『めんどくさいからやりたくないんだけど』
(必須事項だから仕方ない)
「頼もー」
◆
『その入り方で成功するわけないだろ』
(ごめんごめん、あまりに完璧な作戦を思いついたので高揚してた)
『完璧という言葉の意味が変わってしまうんだが』
俺は職員室の扉を開け侵入のための暗唱を唱えた。
そして俺は対峙する。担任という名の初期ボスに。
俺と彼女の未来を掴み取るために。
(今回は決まったな)
『2点』
TAKE1
「どうした、神野」
「先生、席替えをしましょう!」
「まだしなくていいだろ」
TAKE2
「どうした、神野」
「先生、俺、席替えしないと死ぬ病気で」
「はいはい」
TAKE3
「どうした、神野」
「先生、俺、この学校にきた1番の理由は席替えがしたかったからなんだ!」
「はいはい」
・
・
・
TAKE36
「どうした、神野」
「先生、席替えをしよう、これはクラス全員の総意です!(大嘘)」
「そうか、ならするか」
(ナイス同調圧力ーーー!!!)
『人類史で時間の巻き戻しをこんなことに使うやつはお前が最初で最後だろうな』
(何を言っているんだ、本番はこれからだろ)
『精神的に疲れんのか』
(ゲームのリセマラみたいなもんだよ)
『それ疲れるだろ』
(俺はリセマラ好きだ)
『きもちわりぃ』
◇
「席替えをするぞ」
TAKE1
あみだくじ方式か、これなら回数重ねればなんとかなりそうだ。
目指すは隣!そしてなるべく俺が主人公席で隣!
『難易度をあげるな』
(愛があればそんなのすぐさ!)
・
・
・
(ハ、ハハハやったぞ、主人公席かつ隣だあ)
『264回、お前は席替えのためだけに巻き戻しを264回も使ったんだ。運悪すぎだろ。』
(お前がきたとこで運全消費してるかもな・・・)
『会話は致命的なミス以外巻き戻しなしで頼むぞ』
(いやもうそういうのは明日からでいいかな、、、今日はもう疲れた、頭回んないや)
『そうか俺も疲れた』
◆◇◆
【4月11日】
百瀬芽依、ハーフアップにされた長い黒髪に、パッチリとしたおめめに常人離れした童顔。身長は平均的で俗に言うボンキュッボンって感じの子だ。かわいい。
『きもい』
(席が隣になった今、
『すごい説得力の無さ』
(安心しろ、あれよあれよというまに
「ねぇ」
「えっあ、はい!」
「昨日大丈夫だった?」
「大丈夫?何が?」
「すごくキツそうだったから」
「あ、ああ〜一晩寝たら元気元気よ」
「ならよかった、やっぱり緊張するよね〜」
「そうだね、友達ともクラス離れちゃったし」
「そっかあ〜、それは寂しいね。私は百瀬芽依、これからよろしくね」
「神野籃です、よろしく・・・お願いします」
「ふふっ、そんなにかしこまらなくていいのに」
溢れ出る母性?がもうすんごい、黒髪ロングはツンデレだって相場が決まってるものだと思ってた。
「ランくんは係何にするか決めた?」
「係?えーと・・・」
(極力楽なやつに・・・)
「私は文化委員にしようかな〜って思ってる」
「奇遇だね、俺も文化委員なんだ」
「ええ〜ほんとに〜!すごい偶然!」
「いやほんとにね〜」
このあと文化委員の希望者が5人現れてめちゃくちゃループした。
「10月になったらよろしくね!ランくん」
「10月・・・?」
「そうだよ、文化祭は10月だからね!」
「ああ、そっかそっか」
(うわーー同じ係になって接点増やそうとしたのに10月までお預けかよーーー)
『落ち着け、席が隣なんだから悔やむことじゃないだろ』
(うん、まあそうだよね・・・)
「ランくん、次移動教室だよ、早く行かなきゃ」
「ああ、そうだったそうだった」
あれ?移動教室ってことは・・・。
ランの嫌な予感は的中した。
「席は出席番号順で頼むなー」
(うわあああああああ)
「あ、この授業で席替えないから」
(終わったあああああああ)
幸いなことに全教科中移動教室は2科目だけだった。
(いやその2科目がでかいんじゃい!!!)
◆◇◆
【4月28日】
(説明しよう!GW前日まで
なんやかんやあったものの、クラスは同じで席も隣でその上係も一緒になれたので最高のスタートを切ったかと思ったが・・・。
彼女は今では裏で「女神様」と呼ばれる存在となっていた。
その理由は彼女の人当たりの良さにある。
説明するのも嫌になってきたな・・・。
別に嫉妬とかではない。断じてない。俺は心が広いから。
まあ簡単に言うと男女共に平等に接しているから正直ツンデレとかよりも
それ故に今日の今日まで進展が全くない。
(だから今日、GWに一緒に遊ぶ予定を取り付けてみせる!)
『ループ終わらないんじゃないか?』
(そんなことはない、愛さえあれば大丈夫!)
・
・
・
「予定?GWはずっとおばあちゃんの家にいるよ」
無邪気な顔で彼女はそう言った。
◆◇◆
【5月8日】
GW明けの登校日初日。
俺は休み中ずっと考えていた。
そして1つの作戦を思いついた。
これはお互いが帰宅部じゃなかったら成立しなかった。
彼女の善意に漬け込むようで申し訳ないがなりふり構わずにいこうと思う。
「勉強教えて欲しいの?」
「うん、そう、数学全然わかんなくてさ。あと英語も」
「私でよければ力になるけど教えるのそんなに上手じゃないよ?」
「全然大丈夫、頑張って理解するから」
「じゃあ放課後に図書室でしよっか」
「わかった、ありがとう」
(しゃおらっ!ループ使わずいけたぜ!)
『毎回そうなるように努力してく』
(食い気味にいなくなるな)
放課後までの時間が席替えループをしていた時よりも長く感じた。
「数学と英語、どっちからする?」
「数学からにしようかな」
幸いなことに図書室の利用者が誰もいなかった。
放課後の図書室にて2人きりで勉強、とてもラブコメだ。
空気を読んで図書委員が出てくれたら良かったけど。
つまりほとんど2人きりだ。
「数Ⅰと数Aだったらどっちが苦手?」
「どっちもかな」
「なんでそんなに自慢げなの?ちゃんと授業聞いてる?」
「聞いてるっす」
「ふーん。じゃあ数Ⅰからしよっか」
「よろしくお願いします」
・
・
・
「今日はここまでにしよっか、続きは明日ね」
「わかった、ありがとう」
「どういたしまして、帰ろっか」
「う、うん」
(おいおいおいおい、一緒に帰るは想定外だったな。これもしかしたらもうループいらないんじゃね?・・・空気読んでくれてるのかな?今日全く来ないな。)
1人浮かれていたその直後、彼女が椅子を引いて立ち上がった瞬間、後ろの本棚が突然倒れてきた。
「危ない!!」
・
・
・
「痛った・・・」
机に身を乗り出して倒れてくる本棚を両手で受け止めた。
止めることはできたがとっさの事だったので右手が完全に逝った。
「ランくん大丈夫?!ごめんね、私が気づかなかったばっかりに・・・」
「全然大丈夫、右手がなんかめちゃくちゃ痛い程度だから。百瀬さんが無事で良かった」
「それ全然大丈夫じゃないよ・・・本棚起こすね」
「待って、裏に倒した張本人がいると思う、危ないからそばに居て」
「わ、わかった」
「おい、誰だか知らねえけど出てこいよ。」
その誰かが返事をすることはなかった。
それどころか人がいる気配が全くない。
「誰もいない?倒したと同時に逃げたのか・・・?」
「でも初めから私達以外誰もいなかったと思うよ」
本棚を起こしながら彼女はそう言った。
その発言に違和感を覚えた。
「それよりも早く病院に行かなきゃ」
「うん、それはそうなんだけどさ・・・図書委員、図書委員の人は?なんで気づかない、っていないし。」
(誰かが出入りした様子は絶対に無かった。犯人は図書委員しか考えられないけど近づいてきては絶対になかった。仮に本棚の裏まで来たとして、本棚に集中してるうちなら逃げることはできるのか?でもなんで・・・)
「図書委員?今日は図書委員誰もいなかったよ?休み明けだし忘れてたんじゃない?」
「・・・え?」
・
・
・
「初めて骨折した」
「ほんとごめんね…」
「ああいやいや、責めてるとかじゃないから」
病院の帰り道2人きりでラブコメを進めるには絶好の機会だったがそれどころではなかった。
彼女は殺意を持った誰かに狙われている。
犯人を捕まえるために戻りたかったけどこういう時に限って神がいなかった。
神がきたらすぐに戻って・・・
「明日から不便なことがあったらなんでも言ってね」
「え?いや、全然大丈夫!気に病まないで」
「そう?でも授業とかご飯とか右手使えないと大変じゃない?遠慮せずに言っていいからね」
「じゃあ遠慮なくお願いしようかな!」
そうだそうだ、こっちは神が味方なんだ。
それに犯人は学生だろうし概ね百瀬さんと2人で勉強していた俺に嫉妬して嫌がらせをしようとしたら勢い余ってやっちまったって感じだろ。
普通の人ならメンタル死んでるだろうし、これ以上彼女に危害が及ぶ心配もないはず。
明日からもラブコメ頑張っていこう!
神が次に現れたのは俺が死んだ時だった。
初恋ループ 蓬餅鶴ん @yomogiyomo
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